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ハタチの彼女への散文
机の上のピンクの薔薇の造花を、いかにも"孤独を慰めてます"というトーンで眺めていると、なんだかほんのりとした感傷に包まれて、職場のあの女(ひと)を思い出していた。仕事のできない可愛い人。しんみりとした話し方しかできなくて、いつも人に組み敷かれてしまう人。こんなの「好き」なんて言えないけれど、それでも、もし告白されたりなんかしたら120%頷く。馬鹿にしないでって言われるかもしれないけど、弱いのに幸せそうにめいっぱい生きてる、そんなあなたがいるから前を向ける。そう思っていることを、許してほしい。 空想のなかで、夢幻の国のようにドイツの家並みが現れる。橙色の煉瓦造りの家々に、花々が"ちょこちょこと"咲いている。 そんな秘密の場所で彼女は男と、こっそりと手を繋ぐ。夜の街灯に花びらゆらゆら揺らめいて、彼女は頼りなげにふらふら歩く。彼女はなぜだかアオザイを着ていて、その透き通る水色は彼女を健気な蝶にする。気恥ずかしげに彼女の右手は二本指だけで繋がって、それでも彼はひょいと彼女を浮かせてしまうかのよう。ヒールは十二分に高いのに見上げる彼女。頼もしい胸板に胸の琴線が掻き鳴らされて、見つめられると雷鳴が轟くけれども、盗み見たならば深く澄んだ海に包まれるよう。そうして彼女は自問する、美しく妖しい蛾となれるのはいつだろうと。私は彼をしかと見つめ返してその瞳に焔を灯したい。艶めかしい金粉を輝かせながら。 初秋のさわやかな夜には月の光に揺蕩うように、そんな悩ましげな自分にちょっぴり酔ってしまったり、冬には吐息のはんなりとした白色の魔法に、ただただ甘やかなゆめの飴を舌で転がしてみたりと、彼女が細やかで尽きることのない"かのじょ"を、遥かなる空の下、切なくも逞しく描いてゆく明日が響いている。このいま胸に、響いている。 春の夜の石畳の上で歌を口ずさみながら、彼女はまるで小指で水をかくように繊細に、その小さな手を左右に仄かに揺らし出すーああしかしほんとうは、僕こそがその手を取ってその指の、淡雪のようにか弱くもたしかなその腹の、しおらしいやわらかさを、この胸にしかと抱き続けていきたいんだ… そうしてまた夏が来るー彼女とともにはるかなる夏の夢が見れたなら…震えるようにしとやかな歌へと、向かってゆくだろう彼女と。 明け方の消え入りそうな白い月を、彼女はその瞳を細めてしんなりと抱く。そうして少女時代の淡さを胸に焚べて、透き通るような桃色の火をひっそりと灯す。昨日ですらもう遠いようだと、そのちょっぴり物哀しい香りを感じながら、彼女は思う。 昼下がりにはまるで妖精のように、彼女は石畳の上を優美に腰をくゆらせ歩き行く。凛、と。そして苺のように色づいた唇をゆるやかに開いて、あまやかなせつなさを溢れ落としては、腰にやさしく手を当て迎え入れる。海風に孕まれた青へと、艷やかで輝ける青へと、しなだれる予感を。 その胸の桃色の火が、妖しい紫の焔へと移ろっていく陶酔の日々に、たとえば髪型がショートボブになったりするだろうことが不思議だ。一見幼く逆戻りしたようで、しかし開かれたうなじには"女"が宿る、そんなアンビバレンスに目眩がしそう。君は女の子なのか女なのか、いったいぜんたいどっちなんだい? 幼い面持ちを残したその頬が、そっともの哀しく翳る。そんな瞬間だけを、僕はずっと見つめていたいのかもしれない。その胸の底にたしかに存在する、煌めく海と金粉に彩られた媚態への、切ないまでの憧憬。健気ながら、健気だからこそ妖しく、艶めかしいそのため息に、一度でいいから触れてみたい。
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ハタチの彼女への散文 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 406.9
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2025-01-01
コメント日時 2025-01-08
項目 | 全期間(2025/01/18現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
出だしがとても好みです。バラの造花を眺めてほんのりとした感傷に包まれたのは実体験なんじゃないでしょうか?そこをきっかけにイメージがばあっと広がっていったような印象です。 推しを尊ぶオタクじゃないけど、一方通行の気持ち悪さが出つつ、ロマン派?のような純な美しさも感じる散文でした。ただの感想ですみません。
1じつはこの作品は、過去に書いた他の作品たちの断片をコラージュするようにして書いたものなんです。あっ、繋げられるぞ、って(笑)ただそのイメージを繋ぐ際に、スムーズな繋ぎになるよう細かい改稿を頑張ったので、ぱあっと広がっていったような、との感想いただけたのはうれしかったですね。 そんなわけで、おっしゃる通り出だしは実体験で、その後はフィクションを連ねに連ねた、というところ、なんですが… なんですが…"一方通行の気持ち悪さが出つつ"と言われたのは、正直ショックでした。フィクションといえど、フィクションとして作品になっていく過程で、やはり、あたかも真情が宿っているかのような心地には当然なりましたし、大げさに言うならば、つまりこの作品自体が彼女への祈りなんです(笑)それをなんだか否定された気がしました。でもそれこそがまさしくfujisakiさんが素直に感じられたことならば、それを正直に言ってくださったfujisakiさんはいい人とも言え。 もっと言えば、その気持ち悪さというのが、この作品を読んだ折りにfujisakiさんに限らず一定数の人が感じ得る感情なのだとしたら。にもかかわらず、それこそ僕は一生気づくことがなく似たような(言葉使いや表現は洗練されていくにしろ)散文(詩)を書き続けていたかもしれない。それは考えてみれば怖ろしいことです。それを思えば、fujisakiさんの言葉は金言なのかもしれない。 fujisakiさんに言われ、読み直してみたんですが、僕自身はあらためて読んでみて、語りが単調なのに比しての気分の盛り上がりが、なんだかアンバランスというか、そんな感じがしました。そのことで、あたかも一人盛り上がってる感が強烈に出てしまっている(笑) 祈りであるということを担保するには、まさしく厚く(熱く!)塗り込めるような描写は必須だと思っていましたが、一人称では限界があるのかもしれない。というかそもそも詩は絵画じゃないよね?なんてツッコミとも、真摯に向き合わなくちゃならないのかもしれない。そういう構えそれ自体に気持ち悪さが宿ってしまうというのなら、語り方の根本的な変更も考えなくちゃならなくない(たとえば別視点や、三人称の導入等)。 なんだか、宿題をどっさりもらった学生の気分です(笑)出直します。
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