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健気で美しい女優の誕生
一読してもらえば分かるように、この作品はまさしく魂の叫びとしての詩だ。さらに言えば女性的でしんなりとしていて、切々と訴えかけてくるようなトーンに満ちている。にもかかわらず僕は、この作品を半ば「しらけて」読んでしまっている自分に気づいたのだ。 "わたしはわたしじゃなくなった"、"こんな地獄から見たらそれすらも美しかった"、"溢れて零れ落ちちゃう前に"…大げさなと思った。たかだか失恋で、何を言ってるんだと思った。 しかし、そうであるにもかかわらず、いやだからこそ、僕はこの作品をたとえようもなく美しいと思った。この作品は言わば、この上なく純度の高い演技なのではないか。 作者のしゃけさんが演技するように書かれたのかどうかは分からない。最初に書いたように、文面だけ見れば切なる叫びにほかならない文章だ。演技に見えたのはあるいは、僕がたとえば暗に(そんなつもりはないのだけど)、「恋なんてものにうじうじ悩むのはくだらない」みたいな社会通念にまみれてしまっていて、そんな文脈を通してこの詩を読んでしまっていたということもあるのかもしれない。しかしたとえば、意識のうえでは魂からの叫びだとしても、無意識のうえでは艷やかきわまりない媚態を演じているのではないかーたとえばそんな風に考えると、この作品の奥行きがグッと深くなる気がするのは僕だけだろうか。いずれにせよ、この作品には「たくらみ」を見て取ることができる。 「わたしはわたしじゃなくなった気がした」とドーンと最初のうちに言ってしまうのは、読み手を演技にグッと引き込むためではないか。ほどなくして「どうしようもなく可哀想で、溢れて零れ落ちちゃう前に、なかったことにしたかった」と語られるけれど、その前に作者は自分で、「失恋だなんて。こんな地獄から見ればそれすらも"美しかった"」と語るのだ。 流れるような筆致の一筆書きに見えてそのじつ、あたかもすべてが計算され尽くされているようにも見える。皮肉でもなんでもなく、胸の底から、健気で美しい女優の誕生を祝ぎたい。
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健気で美しい女優の誕生 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 403.4
お気に入り数: 0
投票数 : 0
作成日時 2024-12-12
コメント日時 2025-01-04
この批評はしゃけさんの作品に紐付けされているので、しゃけさんがお読みになられることがあれば不快になられるだろうと思い、このコメントを書かせていただくことにしました。この批評を書かせていただきしばらく経ったいま、自分はなんて失礼なことを書いたんだろうと思い後悔に苛まれ、謝罪をさせていただきたいと思いました。 健気で美しい女優の誕生、と最後に書きましたが、ほんとうに思慮が足りなかったと反省しています。お洒落なフレーズが思いつた嬉しさのあまり調子に乗り、それがしゃけさんや閲覧されるみなさんにどんな感情を引き起こすかということについて、考えが及びませんでした。 ですが、正確に言えば、このフレーズの上から目線感に、まったく気づいていなかったわけではなかったのです。まあ少々いいだろうと、そう思ってしまっていました。言い訳になりませんが、(なぜかネットに限って)高揚すると感情のままに、とまでは行かなくとも、ブレーキが効きづらくなってしまう癖があります。上から目線とは思いましたが、批評とはそもそも上から目線なものだ、みたいに、無意識のうちにそのときの気分に都合のよい発想や感覚に漠然と浸って、作品としてupするように自分を持っていってしまった、というのが正直なところでした。ややこしい書き方で申し訳ないです(汗)いずれにせよ、この上から目線野郎はなんなんだ?という感じですよね(苦笑) 信じていただきたいのですが、美しいと思ったのは本当のほんとうですし、健気な感じに惹かれたのもほんとうです。でも言い方があり得なかった。とくに「健気な」と「誕生」の組み合わせは、あきらかに上から目線感を増幅させている。健気さを褒めること自体に上から目線感が宿ってしまうというというその事実を、もっと重く受け止め、語り方を工夫すべきだったと猛省しています。 そもそもを言えば、まったく「演技」じゃないかもしれないにもかかわらず強引に演技しているという方向で話を進めている、そこからしてしゃけさんの内面の尊重もなにもない語りでした。あとはたかだか失恋ごときで、なんてとこも最悪ですよね。 あらためて読み返してみて、ほんとうに流れるような美しい文章だと実感します。平易な言葉だけでここまで胸に響くものが書けるしゃけさんはほんとうすごいと心より思います。…という、この感想を、僕の率直な感想として受け止っていただきたいと、わがままながら願う次第です。ほんとうに申し訳なかったです。ごめんなさい。 この批評を読まれ不快になられたみなさんにも、謝罪を。お目汚し、失礼いたしました。
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