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老いた女
吹き抜ける青い夜に 小さな舟を浮かべた 私とあなたは老いた手を 黒い海にさらしていた 「あなたにはどう見えますか」 長い沈黙に、私は問う 震えは樹皮のような肌のせいではなく 根のような髪のせいでもない 静かな銀色の風に くたびれた襟がなびいた時 あなたは「それをなぜ知りたいの」と。 ああ、私は逃げてはいけないと思いました やがて地平線が近づく それは空白でも、壁でもない ただ線があってその向こうに 本当の透明がある 私はその前に あなたに手を伸ばそうと 「もう終わってしまうからです」 と、言い訳のような事実 するとあなたは指さして 「でも星があるよ、あそこに星がある」と。 だけどあなたの枯れ枝のような指の先に 私は何も見ることができなかった 「ほんとうですね。たしかにあそこに」 私はそうはにかんで 見えない光を皺に刻んだ あなたは向こうを見ている 形ある私で あなたに触れたかったけど ああ 結局女でなくなっても、出来はしなかった あなたの幼子のような黒い目は まだ光を映していたが 私は既に 湖面となるには乾き過ぎていた 透明に輝く星 最も尊い星々よ 私はここに至ってなお あなたの本当の幸いを願うことができません 私は老いた手を 黒い海にさらしていた 吹き終える青い夜に 小さな舟を浮かべて
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老いた女 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 664.7
お気に入り数: 1
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2024-12-08
コメント日時 2025-01-10
項目 | 全期間(2025/01/18現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
静謐な情景で、何かを掴もうとする二人、やり過ごしていってはいけない生の真実、 感情の真実を追求されているのだろうと思いました。情景設定に時間をかけていらっしゃると、 思うのですが、丁寧に詩を作ることは、詩人にとって、とても大切な事だと思います。
0この詩は『言葉になる前の感動を言葉にする、という詩の矛盾を超えてその先にたどり着くためには、叙情的でなくてはあり得ない』と考えている頃に書いた詩でした。 私にとって詩を書くことは、頭の中にある原風景の感動を自分の力の持ちうる限りそのままに言葉にする営みであると考えているのでそう言っていただけて嬉しいです。
1息を飲みながら、読みました。二人の会話が一つ一つの雫となって、黒い海に波紋を作っていくようで、その静寂さにうっかりすれば呑まれてしまう、そんな詩でした。 「あなた」の見えている星が見えないこと、「本当の幸い」といった言葉が出てくることから、「銀河鉄道の夜」を意識されているでしょうか。詩全体が別れを予感していて、最後は一人、舟に乗る風景が浮かんできます。 さて、この詩における「透明」って何でしょうか。地平線の先と、「あなた」が指差す星が、「透明」。そこに尊さを見出だしている。海というのも、実際は透明なのに、黒く不透明な海の上に舟を浮かべていますね。 手をさらす、というのが重要なのかもしれません。透明なのに、そこに確かに在るもの、それを求める船旅なのでしょう。だからこそ、手を海にさらして、感覚を研ぎ澄ましている。かつての透明の名残を持つ「黒い海」の、まだ液体として透き通るその感触を確かめながら、それをコンパスのようにしながら、地平線へ向かう。 そして、透明な星たちを「あなた」が先に見れてしまうのが怖かったのでしょう。なぜならそこから、地平線に吸い込まれてしまうから。だから冒頭、「あなた」の視界を確かめざるを得なかった____ コメントでの緒北さんの姿勢、素晴らしいと思います。それだけの力を持っている方だと思いました。良い詩でした。
1語り、情景ともに全体として薄い印象を受けた。この詩には凝縮がさらに必要だとおもうし、語りと情景のあいだに決定的なコントラストがあってもいいとおもった。
0月並みな感想で恐縮ですが、とても美しい詩だと感じました。 世界観が好みです。
0遅くなりましたがありがとうございます。美しい語彙で綴られた感想をいただけて嬉しいです。 私は風景として浮かんだ感性から詩を書くタイプなので、作者自身としても自分の詩を解釈しきれない部分が多々あります。ミハイさんのように構造的に解釈してくださる方の文章を読むと、私自身もハッとさせられるところがあり、とても興味深かったです。 特に「透明な星たちをあなたが先に見れてしまうのが怖かった」という解釈は、この後に書く私の内省を促してくれた文章で興味深かったです。 さて、「透明」について言及してくださったのを見て、自分なりに良い返答を考えていたところ、色々考えつくところがあったので書いてみようと思います。私は別の詩でもよく「透明」ないしは「本当の透明」という言葉を使っているのですが、自分の作品を見返してみると、見事に叙情的な詩でしか「透明」が使われていないことに気が付きました。それは私の創作の原風景が「透明」であるからで、詩から感じ取っていただいた通り、私の「銀河鉄道の夜」で描かれた叙情への憧れからも来ているのだと思います。 ではなぜ「透明」が私の創作の原風景になり得たのか、自分で考えてみたところ、こういうことだったのかなというものがありました。 透明は描くことができません。「本当の透明」という言葉が叙情的な詩の中に出てきても、想像することができないのです。それが創作者としての私の原風景になり得た理由なのではないかと。 以前のコメントで私は「この詩は『言葉になる前の感動を言葉にする、という詩の矛盾を超えてその先にたどり着くためには、叙情的でなくてはあり得ない』と考えている頃に書いた詩」と書きましたが、その考えに対する今の時点での私の結論が「本当の透明」だったのではないかと思います。 つまり、「叙情的に描画不可能な言葉」を『矛盾を超えたその先』として描くことで、「言葉になる前の感動を言葉にするという矛盾」を解決しようとしていたのではないかと思うのです。 ここで先で書いたことに戻ってしまいますが、『透明な星たちを「あなた」が先に見れてしまうのが怖かったのでしょう』というミハイさんの解釈を考えてみると、凄くしっくりくるものがあったのです。「あなた」が先に「矛盾」を解決してしまうのが怖かった__「あなた」の存在は詩を書く理由なわけですから、それは『「詩を書く理由」が先に到達して消えてしまうのが怖かった』とも言い換えられるのではないかなと。 長くつらつらと書き連ねてしまいましたが、自分でも詩を解釈し直すきっかけになりました。これからも試行錯誤していこうと思います。ありがとうございました。
1遅くなりましたがコメントありがとうございます。 確かに情景はもっと濃縮した表現が出来ていたなら、もっと良い叙情詩になり得たと自分でも思っています。しかし、語りの部分はこれ以上凝縮できないのではないかと思いました。 語りで伝えたい情報を情景の描写で表現できたら尚良いというのは、叙情詩を書く者として目指すところだと思うので精進します!
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