いますこし
あなたのかたわらで
あなたのつくる木陰に
わたしをやすめさせてください
かつて
あなたから遠く
遠くはなれていったわたしを
あなたの幹にもたげさせてください
あの日は
春の陽の光が
とてもやさしくあたたかでした
わたしはひとり巣をはなれました
見知らぬところへ
風がみちびくままに
ふたつのつばさをひろげ
わたしは飛んでゆきました。
いごこちよければとどまって
あきたころになればまた飛んでゆきました
ずいぶん遠くに飛んでゆきました
ずいぶんあなたからはなれてしまいました
そうこうしているうちに
わたしのつばさは病におかされました
りょうのつばさはばたかせて
遠くにまで飛べないようになったのです
そんなある日、わたり鳥の群れが
わたしのうえをとおりすぎてゆきました
それがあなたのうえをとおることを願って
わたしは群れのなかに飛びこみました
群れのうしろにつけば
遠い道のりを飛ぶことができるのです
それは遠く、遠く
はるかに遠い道のりを飛んでゆきました
何日も何日も飛びました
そのあいだもはねがぬけてゆきました
どんどんどんどんぬけてゆきました
目もすこうし見えなくなってゆきました
そうして、とうとう
ちからつきて落ちてしまったのです
ところがそこはあなたの枝のうえ
あなたの腕に抱きとめられたのです
あやまちをくりかえしくりかえし
わたしは生きてきました
もう二度とあなたのもとをはなれません
はなれることなどできないでしょう
つばさやぶれるまえに
病にやぶれるまえに
わたしはもどってくるべきでした
あなたのもとにもどってくるべきでした
いますこし
あなたのかたわらで
あなたのつくる木陰に
わたしをやすめさせてください
いますこし
あなたのかたわらで
あなたのつくる木陰に
わたしをやすめさせてください
─父に─
作品データ
コメント数 : 18
P V 数 : 1246.8
お気に入り数: 0
投票数 : 6
ポイント数 : 0
作成日時 2024-10-01
コメント日時 2024-10-06
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/12/27現在) | 投稿後10日間 |
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2024/12/27 02時50分07秒現在
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近代詩的な構造の詩で、安心感があります!
1お読みくださり、ありがとうございました。 ぼくが27歳か28歳のときに書きました。
1より深く印象的に感情を伝えることができるものならば、そこには詩という言葉の力が起ち上がるのでしょう。比喩という技術もその一躍を担います。渡り鳥に喩えられた美しい言葉を配したこの文章を、例えば白紙に描かれるで解釈するならば優れた素描のようはものでしょう。 いまでは他文からの引用や形式的スタイルを中心に独特な言葉を繰り広げる筆者も、このような感情表現の基礎を通過してきたわけです。 おじさんもおばさんも歳を取れば老眼になり記憶力も低下する。そして舌も空回りする。悪意を表明する若い書き手たちはこのことを取り上げて老害などと評したりもする。当然新しき言葉は詩の書き手ならば憧れる。しかし忘れてはいけない。佳い書き手に成るにもちゃんと渡らなければならない道筋というものはあるのだ。
0アラガイsさんへ お読みくださり、ありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
0渡り鳥の親子として、飛び続け、どこかへと渡って行った。子供の頃の生活は、空にふわふわ 浮かんでいくようなところがありますね。羽をなくし、木陰にやすらう。立派なお父さんを お持ちになられて、よかったですね。田中さんもそれに応えた。
0黒髪さんへ お読みくださり、ありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
1なんというか、田中宏輔さんの、著作を読み込んだ後に、特に『FOREST』付近の著作、「陽の埋葬」、あるいは、「THE GATES OF DELIRIUM。」のシリーズを読んだあとにこの詩を読むと、切ないですね。 最後に書かれている、宛先が..
1作者は自分とを鳥と重ね合わせて、巣立ちして大空を飛び、やがて衰えて故郷へ戻り大樹の中で息絶える姿を描いていますね。 始めの連と最後の連が繋がって綺麗に収まるように作られていて良いと思いました。
0鳥と木の友情であろうかと思いました。群れから離れた孤独な鳥なのかもしれません。木に懺悔の告解を行っているのとは違うのかもしれませんが、何か宗教の萌芽みたいなものがこの詩から感じられました。勿論鳥を擬人化しているとは断定できないでしょう。敢えて木と鳥の個別的な、具体的な全貌化を避けて、かと言って思弁的な内容に徹しているわけでもない。鳥の叙事詩なのかもしれません。
0ryinxさんへ ぼくの原点みたいな位置にある作品であると思っています。
1秋乃 夕陽さんへ お読みくださり、ありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
0エイクピアさんへ お読みくださり、ありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
0孫悟空が走り続けていたのがお釈迦様の掌だった、というお話を思い出しました。素敵なお父様ですね。
0いえ、実は、ぼくは父を憎んでいたんです。 父が死ぬ三日前に、ぼくにあやまりたいと電話をしてきたときに ぼくは許さないと返事しました。 この作品は、父の理想像としてつくりました。 とはいっても、音楽の趣味も、文学の趣味も 父親の影響が大きいです。 西洋音楽、ラテン音楽、西洋文学が好きな父でした。
1田中さんは詩集も数多く出している。そろそろH氏賞の候補くらい上がっていいはずだと、例えば「陽の埋葬」とか。そう思ってるあなたのファンは少なからずいると思う。まあ、賞とかはべつに気になさらなくとも何れは陽の目を見るでしょうね。腐らずに時期を待つことでしょう。
0ありがとうございます。
0鳥の巣立ちの場面かと思ったのですが、そう考えると擬人化されすぎている場面が空想されて、あくまで自分の空想なので、この詩は鳥でなくてもいいと思いました。「あなた」は人間なのでしょう。でも翼を腕と考えると親鳥か、鳥の中でも義侠心に飛んだ鳥が居るのかもしれないと思いました。矢張り全体的にみると鳥の詩と考えるのが素直だと思うのですが。
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