ことだまつかい - B-REVIEW
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ことば

ことばという幻想

純粋な疑問が織りなす美しさ。答えを探す途中に見た景色。

花骸

大人用おむつの中で

すごい

これ好きです 世界はどう終わっていくのだろうという現代の不安感を感じます。



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ことだまつかい    

 ウルトラマンみたいな顔のついた、背中のある黒いカメムシに睨らまれて、君の吹いたしゃぼん玉はいつもより永い寿命を誇った。  ストローの先から滴る石鹸液に、太陽は虹色のスペクトラムを穏やかに飾るから、公園のなかに広がる光学の法則は、常に神さまの命令を忘れられない。いつもここにこのとおりに何億回、何兆回、何京回。アイザック・ニュートンも、さすがに退屈だと思うだろうか。  けれど幼い君には変わった癖がある。本当に笑ってしまうような全然退屈しない癖。壊れて消えてしまう淡色のしゃぼん玉の一つ一つに、かわいい名前をつけるのだ。 −−あれは誰? −−あれは「ぴぃしゃー」、その周りに浮かんでいるのは「ノレン」、その脇のキラキラした小さいやつは「Homu」  固有名詞をそのものに与えることは、たった一つのかけがえのないそのものに無二の御魂を与えること。そしてそのものを無償的に愛すること。自分の生命を愛するように、誰か何かに自分と同じように無二の名前を与える。そのとき刹那のしゃぼん玉が永遠の思い出になる。  きっと君はエデンの園からやってきたベテランの魔法使いだ。優しい色のくちびるをツンと尖らせて、君はそうやって、ぬいぐるみのサメにも、ちょっと焦げたホットケーキにも、じいじの古いガラスペンにも、気まぐれに名前という生命を与える。それが自分の世界の空間を滑らかに接続する一人遊びなのだ。  私と君はそんな言霊をただ当たり前に受け入れている。奇妙な理屈や理論なんていらない。うまれたてのサイダーみたいな清涼感のある日常風景に、私たちはそれ以上の意味をつくらない。君はちょっと俯向いたまま、石鹸液の入ったピンクのボトルをギュッと握りしめていた。 私の子どもは自閉症だ。  ひらりは5歳になってもなかなかうまく言葉を発しなかった。様子がなんだか周りの子と違っていたのは、親心にとても不安だった。恐る恐る小児科へ受診すると、すぐに自閉症と診断された。  涙がポロポロとこぼれ落ちた。ひらりにがっかりしてるわけじゃないのに、この世に産まれてきてくれたひらりのことを後悔してるわけじゃないのに、私は泣いてしまった。ダメな親だ。  お医者様からは、通常の健常者のようなコミュニケーションはこれからひらりちゃんが年齢を重ねて大人になってもとれる可能性はほとんどないでしょう、とはっきりと言われた。  でも私から見るとひらりは言葉自体は理解しているような気がする。私の目をじっと見つめるようにして、静かに何かを訴えているような素振りをすることもある。  きっとその心のなかで何かがグルグルと渦巻いているのは確かなことのようだ。この外の世界とこの子の内なる世界との間に上手な架け橋が構築できていないだけで、心の豊かさは他の子と何も変わらないのではないか。 私にはそんな気がするのだ。


ことだまつかい ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 8
P V 数 : 784.7
お気に入り数: 1
投票数   : 2
ポイント数 : 96

作成日時 2024-09-06
コメント日時 2024-09-12
#現代詩
項目全期間(2025/04/12現在)投稿後10日間
叙情性4040
前衛性00
可読性1010
エンタメ00
技巧1515
音韻55
構成2626
総合ポイント9696
 平均値  中央値 
叙情性4040
前衛性00
可読性1010
 エンタメ00
技巧1515
音韻55
構成2626
総合9696
閲覧指数:784.7
2025/04/12 09時11分48秒現在
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    作品に書かれた推薦文

ことだまつかい コメントセクション

コメント数(8)
吸収
吸収
作品へ
(2024-09-08)

よく書けていると思うけどコメントはつかないんだな コメントしづらい内容なのかも知れない 経験に基づく、というか 上手いとしか言えないからかもしれないけど 例えば子育てとかした方がない人がこの作品を書けるのか?と考えると ちょっと難しい気がする コメントがつかないのもその辺りに原因があるのかもしれない この作品が 全くの想像で書かれているのなら 意図が全く不明になるので そうではないとは思うけど この作品がある程度の経験に基づいて書かれているのなら 何故この題材を選んだのか? 何故この切り口なのかとも思ってしまう。 いや、技術的には色々と言うべきことはあるだろうし、優れていると思う そつがなさすぎて、刺さりにくい感じになってるのかもしれない 確かに良いものには良いと言うしかなあのだけど。

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A・O・I
作品へ
(2024-09-08)

たんに詩としては好みじゃなく(すいません)、よいエッセイだと感じます。コレが作り話、掌編であれば切り口といい流れといい多く書きすぎず上手いなと素直におもえました

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おまるたろう
おまるたろう
作品へ
(2024-09-08)

チューブにも障害児の子育ての動画があったりして、なかにはアルファアカウントになっているチャンネルもありますし。こういう作品、ありだと思うのです。ただ「書き続ける」には、ある程度の「ま」を置いた方がいいかもしれないですね。作者の脳内リアリティと、現実認識との距離を慎重に測っていくような操作がいるような気がします。取り扱いがとても難しい。

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Amber Sweets
Amber Sweets
吸収さんへ
(2024-09-10)

読んでいただきありがとうございます。 詩としては未完成……かもしれないですね。まだ書きはじめたばかりで、自分でもよくわかっていないのかもしれないです。もっと勉強してみます。

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Amber Sweets
Amber Sweets
A・O・Iさんへ
(2024-09-10)

感覚的にエッセイっぽくなってしまいました。詩というものの表現がうまくできないみたいです。難しいです。

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Amber Sweets
Amber Sweets
おまるたろうさんへ
(2024-09-10)

「ま」が詩には必要なんですね。これからは「ま」を意識して書いてみます。よろしくお願いします。

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つつみ
作品へ
(2024-09-12)

個人的に、障害のことを公表してしまうことを私は好まないのですが、この作品に関してはそれでも読める作品だと思いました。名前の与え方がとても素敵だったから。ベテランの魔法使いだから。親がきちんと言霊を受け止めているから。理由を挙げればきりがないけど、色々な想いが溢れていて、言葉ってなんだろうと思った。健常者の方が言葉発しすぎな気がするほど、ひらりちゃんは言葉を大事にしていると思いました。

抒情:40 前衛:0 可読:10 エンタメ:0 技巧:15 音韻:5 構成:26  
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天才詩人2
天才詩人2
作品へ
(2024-09-12)

泣いたってことは 認めたってことで 認めたってことはかしこくなったってこと かしこくなったってことはやさしくなったってことだと思います

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投稿作品数: 1