和室から見える景色は
まさに夏そのものを現している
水色に薄められた絵の具に
白を淡く馴染むように付け足した、そんな背景
伸びる焦茶の自由な線に緑は白く光り
ときおり吹く生暖かな息に
気持ちよさそうに体を揺らす
開け放した窓の網戸の端に
一匹の羽蟻がウロウロと彷徨い歩き
まるで木々と木々との間を渡りながら
空中浮遊しているようだ
透明な羽は閉じたままピンと伸ばし
黒い手足を忙しなく動かしながら
辿り着く場所すらわからぬといった具合に
縦横無尽に動き回る
どこからともなくじっとりと
浮き出る汗を拭いながら
私も以前、羽蟻のように
たまたま余り行きつけではない銀行へ
預貯金の振り込みをするために行く途中で道に迷い
畑と住宅地の広がるアスファルトの道を
行ったり来たりしたことを思い出して苦笑した
人通りもやけに少なく
民家とビニールハウスとが交互に入り組み
歩くたび蒸されたような食物の匂いと
土の香りとが鼻についた
喉の渇きを覚え、あまりにも歩き疲れて
自暴自棄になりながらもやっと辿り着いた安堵感
(いま、目の前で彷徨いている羽蟻も目的地に着くだろうか)
そんなことを考えながら
もう一度網戸のほうへ目を向けると
あんなに黒々と目に焼き付いていたはずの
羽蟻の姿はいつの間にか消えていた
作品データ
コメント数 : 14
P V 数 : 894.4
お気に入り数: 1
投票数 : 5
ポイント数 : 0
作成日時 2024-09-02
コメント日時 2024-09-14
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
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閲覧指数:894.4
2024/11/23 16時56分55秒現在
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迷い込んだ羽蟻に自分の姿を重ね合わせた感じなんですね(. ❛ ᴗ ❛.) 一匹の羽蟻から自分が何に迷っているか、何を目指しているのか、考えが広がっていくのが面白いです★ なんか読んでてほっこりする(*´ω`*)
1田代ひなのさん、小さな生き物と自らをを重ね合わせる病に罹っている者にとって、嬉しい感想をありがとうございます♪ またよろしくお願いします。
11寸の虫にも五分の魂ですね。そういう感情移入が世界をよく回す気がします。尊大より謙虚の方に人間性がやどる。
1いつもの歌として作られた詩も良いのだけれど、こういった文学的な感じに作られた詩は新鮮に思える。情景がきちんと描かれていて好きな感じがする。
0湖湖さん、ありがとうございます。 私はどうしても小さな生き物に目が向きがちになります。 そんな私は謙虚を通り越して卑屈だからかもしれません。
1テイムラー隆一さん、ありがとうございます。 褒めていただき、しかも好きな感じと言って頂き、大変嬉しいです。 いつもこれで良いのかと試行錯誤しながら書いていますが、また次も頑張って書いていきたいと思います。
0嘘がない感じがしてよい詩だと思いました。虫と自分の見つめ方が素敵だと思いました。
1佐々木春さん、感想ありがとうございます。 そうですね。 そのままみたまま感じたままの描写になりました。 虫はなぜか感情移入しやすいんですよね。 私自身、虫そのものが苦手なのに、不思議なものです。
1虫苦手なんですね! わたしもにがてなのですが、作品に登場させてみたいと思いました。
1そうなんですよ。 虫は大の苦手で触るのも嫌なぐらいなんですけど、なぜか虫を見ると同調しちゃうみたいです。 佐々木春さんも虫苦手なんですね。 いつか虫が登場する、佐々木春の詩を拝見してみたいです。
0蟻だとしても、「羽蟻」を登場させているのが面白いです。地道に歩いていくだけじゃなく、ぷんとどこかに翔ぶこともできる。 そして、「私」も歩ける。そして、回顧や空想の世界に翔んでいける、「羽蟻」のモチーフと重なる。よく人の自由さを鳥とたとえたりするのを見ますが、案外人間は羽蟻のようなものかもしれない。 その他細かな箇所として、羽蟻が「空中浮遊しているようだ」とか、「私」が歩き疲れるまでの、繊細な表現たちが良いです。
1熊倉ミハイさん、感想ありがとうございます。 案外人間は羽蟻のようなものかもしれない、そうかもしれませんね。 羽蟻や蟻や他の小さな生き物を自らと重ね合わせて描くことが多く、逆に鳥類はあまり私の作品のモチーフには現れません。とはいえ、最近、鴉をモチーフにした詩を描いたばかりですが…。 虫たちの方が小さな体で必死に生きる姿に共感できるからかもしれません。
0意外と、というと失礼にあたるかもしれませんが、書き割りみたいな感じで、一行書いたらまた一行...というふうに、ポンポンと文章が書ける方なんじゃないかなって思っています。小説向き?なのかもしれませんね。勝手なリクエストになってしまいますあ、自分の世界観ばかりではなく、もっと「他者」を、書いていてほしいなと思いました。
1おまるたろうさん、感想ありがとうございます。 おまるたろうさんの言葉で「そういえばここには【他者】を描いた作品を置いてないなあ」と気づきました。 「病床の光」や「祖母の好きな花」など、他所に載せた作品で【他者】との関係性や交流を描いたものもあるんですけどね。 そのうち気が向いたら、また新たに書いて載せるかもしれません。 「小説向き」というお言葉、小説書くのをしばし断念していた者にとっては、また少し文学賞に向けて書いてみようかなと思えるきっかけとなりました。 重ねて、お礼申し上げます。
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