底浅の透き通った水の流れが
昨日の雨で嵩を増して随分と濁っていた
川端に立ってバスを待ちながら
ぼくは水面に映った岸辺の草を見ていた
それはゆらゆらと揺れながら
黄土色の画布に黒く染みていた
流れる水は瀬岩にあたって畝となり
棚曇る空がそっくり動いていった
朽ちた木切れは波間を走り
枯れ草は舵を失い沈んでいった
こうしてバスを待っていると
それほど遠くもないきみの下宿が
とても遠く離れたところのように思われて
いろいろ考えてしまう
きみを思えば思うほど
自分に自信が持てなくなって
いつかはすべてが裏目に出る日がやってくると
堰堤の澱みに逆巻く渦が
ぼくの煙草の喫い止しを捕らえた
しばらく円を描いて舞っていたそれは
徐々にほぐれて身を落とし
ただ吸い口のフィルターだけがまわりまわりながら
いつまでも浮標のように浮き沈みしていた
作品データ
コメント数 : 17
P V 数 : 756.1
お気に入り数: 0
投票数 : 6
ポイント数 : 0
作成日時 2024-09-01
コメント日時 2024-09-03
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/12/04現在) | 投稿後10日間 |
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閲覧指数:756.1
2024/12/04 02時31分46秒現在
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ゆったりとした情景描写が、詩全体に不思議な落ち着きを与えている感じがします。
0やはり余白がある方が映えるし読みやすいです。丁寧な描写に好感。流れ行くタバコの吸い殻ほどに恋の行方は曖昧不確定。
0この詩には10点中**9点**を評価します。 ### **評価と分析** **1. 詩の構造と技法** この詩は、視覚的な描写を巧みに織り交ぜて、感情と状況を鮮明に描き出しています。全体の構成はシンプルですが、それぞれの部分が互いに補完し合いながら、一貫した流れを持っています。詩は、具体的な情景描写と内面の独白が交互に織り成される形式を取っており、視覚的なイメージと感情的な内容がバランスよく融合しています。 - **冒頭の情景描写**は非常に詳細で、川の様子や水の動き、草の揺れといった自然の描写を通して、読者に視覚的なイメージを強く印象付けています。これにより、詩の雰囲気と感情的な背景がセットアップされます。 - **中盤の内面描写**では、語り手の感情が深く掘り下げられ、恋愛の不安や自己への疑念が浮かび上がります。「きみを思えば思うほど自分に自信が持てなくなって」という表現は、関係性の中での葛藤や迷いをよく表現しています。 - **終盤の描写**では、「煙草の喫い止し」が川の渦に捕らえられ、浮き沈みを繰り返す様子が、語り手の不安定な心情と重ねられています。この具体的な比喩が、詩の結びとして非常に効果的で、印象に残る終わり方をしています。 **2. 詩のテーマと意味内容** この詩は、**自然描写を通じて内面の不安と自己疑念を描く**というテーマを持っています。詩の表面には一見穏やかな情景が描かれていますが、その下には、語り手の心の中に渦巻く複雑な感情が潜んでいます。 - **自然の中の自己探求**:詩の冒頭から中盤にかけて、川の様子や草木の揺れといった自然の描写が続きますが、これは語り手自身の心の状態を反映しているように感じられます。水の濁りや草の揺れ、朽ちた木切れの描写は、語り手の心情や精神状態の象徴と解釈できます。 - **距離感と孤独**:「それほど遠くもないきみの下宿がとても遠く離れたところのように思われて」という部分は、物理的な距離を超えて精神的な距離感を強調しており、語り手が感じている孤独や孤立感を表現しています。 - **揺れ動く心**:終盤の「煙草の喫い止し」が川の渦に捕らえられ、浮き沈みを繰り返す場面は、語り手の不安定な心情を象徴しています。この繰り返しのイメージが、詩全体のテーマである「迷いと不確かさ」を強く示唆しています。 **3. 言葉の選び方と表現** 詩の言葉の選び方は、非常に具体的で視覚的です。「黄土色の画布に黒く染みていた」「棚曇る空がそっくり動いていった」といった描写は、非常に生々しく、読者に強い印象を与えます。さらに、自然の動きや変化が巧みに描写されることで、詩の中に動的な要素が加わり、詩全体にリズムと流れを与えています。 一方で、感情の表現は控えめで抑制されており、読者に考えさせる余地を残しています。これが詩の深みを増し、読者の共感を呼びます。 **4. 改善点** - **より多義的な表現の追加**:詩全体が非常に視覚的で明確なイメージを持っている一方で、さらに抽象的で多義的な表現を追加することで、読者にさらなる解釈の自由を与えることができます。たとえば、内面の葛藤や迷いを直接的に描くのではなく、別の象徴を通じて表現する手法を取り入れても良いでしょう。 - **感情の高まりの調整**:詩の中盤から終盤にかけて、感情の高まりがやや一定しているため、もう少し感情の起伏を意識して描くことで、詩全体のダイナミズムが増すかもしれません。 **5. 詩の意図と解釈** この詩は、自然描写を通して語り手の内面を映し出し、読者に対して自己探求と内面的な葛藤を感じさせる作品です。語り手が感じる孤独や不安は普遍的なテーマであり、読者に共感を呼ぶ要素が多く含まれています。特に、自然の中に自分自身の心を見つけるというテーマは、詩の中で巧みに描かれており、作品全体に一貫性と深みを与えています。 ### **結論** この詩は、視覚的なイメージと感情的な深みを兼ね備えた優れた作品です。詩全体の構成とテーマがしっかりとしており、自然描写を通じて内面の感情を効果的に表現しています。さらに象徴的な表現や感情の高まりを調整することで、詩全体のインパクトをさらに高めることができるでしょう。それでも、この詩は非常に完成度が高く、読者に深い印象を与える力強い作品です。
0テイムラー隆一さんへ お読みくださり、ありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
0湖湖さんへ お読みくださり、ありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
0AI詩研究所さんへ お読みくださり、ありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
0「●」を使わない田中宏輔さんの作品はなんか怖い。プードルだと思ってたけど、毛を全部刈ったらシェパード犬だったみたいな感じ。すべてがカッコいい。
0おまるたろうさんへ お読みくださり、ありがとうございます。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
0この作品は、1989年のユリイカ8月号「ヘミングウェイ」特集号の詩投稿欄に掲載されたものでした。ぼくがはじめて書いた詩でした。初投稿作品でした。選者は、吉増剛造さんでした。思い出深い作品でした。23歳のころに付き合っていた学生の彼の部屋に行く途中で高野川のバス停で見た光景と、当時の自分の気持ちを重ね合わせてつくりました。この作品以後もユリイカには投稿して、1991年の1月号で、ユリイカの新人に選んでいただきました。そのときの選者は大岡信さんでした。来月、そのときの作品を投稿させていただこうと思っています。
2きれいな情景ですね。水彩のような透明感、、
0ありがとうございます。 処女作ですが、詩人の大谷良太さんは、この作品が、ぼくの最高傑作だと言ってくれました。 しかし、ぼくはそうは思っていません。 長篇詩『The Wasteless Land.』が代表作だと思っています。
3始連はバスを待っている時の周りの情景、二連目は想い人への感情を吐露する状況が描かれ、終連は「堰堤の澱みに逆巻く渦」の様子を描くことで、感情の浮き沈みをよく捉えていると思います。
0秋乃 夕陽さんへ お読みいただきありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
1こちらこそ有難うございます。 またよろしくお願いします。
0素敵な詩ですね。なんというか、今の時代に素直にこういう表現ができたらいいなと思いました。
1佐々木春さんへ お読みいただきありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
0「いつかはすべてが裏目に出る日がやってくると」 こう言う危惧感は杞憂なのかもしれませんが、次の連の煙草の描写と相俟って、一筋縄ではいかない状況が示唆されているようで、緊張感をはらんでいると思いました。
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