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フィラデルフィアの夜に 49
フィラデルフィアの夜にいなくなります。 夜に、カウントダウンが始まります。 街の真ん中、そこに大きなビルが建てられその完成のお披露目のために、表示されている数字が減っていきます。 新たに作られた広場には多くの人々が集まり、一秒ごとに減っていく数字を皆で声を揃えて合唱します。 遂にはその数字がゼロになり、真っ暗闇に隠されていた豪勢なビルがこの世の全ての歓声と共に露わになりました。 ただ、その歓声は、絶叫へと変わったのです。 絶対たどり着けない場所に、老婆がいる。 老婆がいます。 一体どこから迷い込んできたのか。 高いビルの外壁。その大きく出っ張った一か所。現代的な装飾が施された、その場所に。 老婆がいる。 カメラを、双眼鏡を、望遠鏡を。 広場から、また報道のヘリからそれらを向けて、老婆がそこにいると確認する。 老婆はそこで何をしているのか。 立ちすくみ、歩き、また佇む。 轟音の様な悲鳴が広場から立ち上がり、まず報道ヘリから声を、続いて警察と消防が大慌て叫び出す。 老婆は、ただ。 立ちすくみ、歩き、また佇む。 地面近くには風はない。 でも老婆がいる階層辺りでは突風が吹きすさぶ。 ヘリはそこに、老婆がいるそこに近づくことができない。 それだけの暴風の中。 老婆はただ。 立ちすくみ、歩き、また佇む。 大混乱が続く。 こんな時にビルの電源が急に切れた。 周囲からの光のみが右往左往する老婆を照らす。 立ちすくみ、歩き、また佇む。そんな女性を。 それでもビルの下より、数個の光が昇っていく。 警察、消防とビルの管理者が大急ぎで駆け上がっていく。 急な非常階段。そこを急ぐ光が。 立ちすくみ、歩き、また佇む。 その突起で。 立ちすくみ、歩き、また佇む。 いつもの様に。 立ちすくみ、歩き、また佇む。 遊ぶかのように。 立ちすくみ、歩き、また佇む。 少女が。 息も絶え絶えに、警察と消防にビルの管理者がその突起の近くまでたどり着く。 普段入れない場所。清掃の人間しか絶対に入る事が許されない場所。 そこに、鍵を開け入り込んだ。 出来る限りの光を浴びせかけて。 突風対策で雁字搦めな程に命綱を引きずり、その突起へ足を踏み入れる。 飛ばされそうな風が吹き、設計ミスを疑うレベルで足が滑る。 そこに、人影。 小さな、小さな、人影。 赤ん坊が、そこに座り込んでいた。 老婆だけでなかったのかと周囲を見渡すも、その子しかいない。 死角をなくせる程の光を照射しても、その子しか。 ともかく、その子だけでも保護しよう。 近づいていきます。 さらに、小さく小さくなり。消えました。 数人の大人と、遠くからヘリのカメラが見ているその最中で。 朝になり、数多くの人々があのビルの突起に集まりました。 その場に居合わせた警察、消防に管理者。それにヘリから見ていた報道記者。 その他大勢の人々。 改めて風と高所で身動きが取れない中、苦労してあちこちの確認を取ります。 生きている人間の痕跡を見つける事がどうしてもできなかったのでした。どこにも身を隠せないこの場所で。 指紋も、毛髪も、何も。 ただ、大勢の人々が見たという記憶と映像だけを遺して。 ただ、異様なまで針金があったといいます。二重螺旋の構造をした針金が。 ビルは不可思議な話を残しつつ営業を始めました。 なのに今日、また配電がおかしくなり真っ暗になったのです。 清掃係から、あの突起の部分におかしな構造の針金が多くあると報告があった日に。
フィラデルフィアの夜に 49 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 703.7
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2024-04-21
コメント日時 2024-05-02
項目 | 全期間(2024/12/26現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
自由詩だけど短歌っぽいですね。 ちょっと詠んでみよかな うつりけり石灰色のアメーバの外郭からは老婆がひとり
0これが短歌っぽいとは、予想外。 ちなみに元ネタは「山怪朱」(山と渓谷社)にあったありえない場所にいた少女の話。 原型がないほど変えていますが。 ではさらに返詩を。川柳で。 老婆いる 針金舞いて 姿消え
0小生、「こわい話」(変な家みたいなの)を書く才能はゼロなんですが、この作品は怖い話に発展できそうだなと思いました。
0二重らせん構造の針金と聞けば興味が湧きますね。勿論ワトソンとクリックの遺伝子の話ではないと思うのです。でもこの作品は詩だけに、詩的展開の最終連でしたし、興味が湧くとともに、詩を締めていると思いました。
0針金が関係する不可思議な話を連作しているのですが、そう言われると怖い方向に向いている話はいくつかあります。 とはいえバッドエンドは好きじゃないので怖い話を書こうとすると、そこで上手くいかなくなるかもしれません。
1赤ん坊より小さくして針金にまつわる形に持っていこうとした結果、遺伝子にしてみました。 どうやらこの展開はよかったみたいですね。 どうしてこうなるのか説明していないのが、詩情をだしているようです。
0淡々とした語り口がハラハラ感サスペンス感を際立たせる。 一体老婆と赤ん坊はなんだったのか、幻か、それとも実在している者か、気になります。
0元にした「山怪朱」にあった話では絶対にいるはずがない山奥に女の子がいた、というものでした。 この出来事を話した方はそれ以上確認していないようです。 おそらくあまりに異様に感じてゆっくりと離れたのだと思います。 この話と同じく、この老婆と赤ん坊はよくわからない存在になるかと。 だからこういう話が面白い気がします。
0そうですね。 よくわからない存在だからこそ面白いと私も思います。 柳田國男の本「遠野物語」にはそうした類の話がたくさん出てきますね。 摩訶不思議で科学的には説明できないような。 私はそんな話が大好きでいつも読んでいます。
0さいごの連が印象的でした。
0羽田恭様、こんばんは。 作品を読ませていただきました。 大勢の人が目撃した人物は一体何者だったのか。妖怪や怪奇現象の類だったのか。何故針金だけが残ったのか? 個人的に降霊術や黒魔術の類を配電の電気エネルギーを利用して成功させたのだろうか?だとしたらその目的は何なのかとか考えていました? 謎が謎を呼ぶ不思議な作品を読ませてくださり、ありがとうございます。面白かったでさす。
0よくわからない事が、よくわからないタイミングで発生するというのはあまりない締め方かもしれませんね。 思ったより印象に残る最後にできたようです。
0元になった怪談もただただ不可思議でよくわからないものでした。 なのでそういった謎が多い作品に仕上げて見ました。 予想以上に好評なようで、よかったです。
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