別枠表示
証 ――「白」字解
たとえば降りたての雪の色だとあの人は言う、 しかし今は冬ではないし そもそもこの町には雪が降らない。 あるいは晴れた日の雲の色だとあの人は言う、 しかし今は嵐の時で 空には暗雲が立ちこめている。 だったらこの真綿の色だとあの人は言う、 しかし私たちが検める間もなく それはたやすく別の色に染まってしまう、 傷ついた胸から止めどなくあふれ出る真紅に。 あの人はうなだれて言う、 こんなに生臭い色ではないのだと。 もしかして煙の色かもしれないとあの人は言った、 しかし燃え立つ炎の上には 黒々とした煤が舞っているばかりだ。 今となっては本人に確かめようもないが しかし私は思う、 あんなに焦げ臭い色ではなかったはずだと。 だとしたら私たちはもう 真実を知ることはできないのだろうか。 いいや、すべてを焼き尽くした暁に とうとうあの人は証してみせた、 その汚れなき色を――色なき色を 灰の中に遺された剥き出しの頭蓋によって。 そうまでしなければ認められることのなかった あの人の白さ。 (初出:「詩素」2号)
証 ――「白」字解 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 972.9
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-01-26
コメント日時 2018-02-03
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
(補足) 別に知らなくてもいいことですが、 「白」という漢字は一説に、ヒトの頭蓋骨の形から来た象形文字なのだそうです。
0たとえば骸になることでその真っ白さを証明してみせたあの人。 もちろんあの人とは誰なのか、物語を追いかけても読み手にはわからない。これは読み手が想像すればいいことでしょう。読み手の物語のなかで。それが上手く手渡せているのか、ということがこの詩に対する評価の決め手にもなる。景色を眺望しながら考えてしまう私がいます。この白さがわからない読み手である自分がもどかしい。
0アラメルモさん、コメントありがとうございます。 「あの人」は誰か、というのは、正直あまり意識していませんでした。 どちらかというと人間より、人間同士の(「あの人」と「私」と「私たち」の)関係性の方に気持ちが向いていたので……。 その点は、あまり上手く手渡せていない自覚があります。
0たびたびすみません、肝心のことを書き忘れました。 読み手として感じていらっしゃる「もどかしさ」は、詩中の「私」の感じているそれと相通じているのではないかと思います。
0たとえば だったら もしかして だとしたら そうまでしなければ 冒頭に置かれることによって、アクセントとなって立ち上がるフレーズ。 色、とはなにか・・・・私には、愛、のように思われました。 その人、との思いが、一気に様々な色と質感、苦みを伴ってあふれ出す。 火葬、の現場、その衝撃を、このように表現されるとは。 「検める」「認められる」そして、「証してみせた」。 あらためる、したためる、あかしする。 漢字の持つ強さについて、改めて考えさせられました。 白、という漢字の持つ、迫力についても。
0オチがとても面白いと思いました。中学生の時に、スキー場に行くついでに「本当は怖い漢字の由来」みたいなビニ本を買った事があるのですが、それは中々怖いんですが面白い。この詩も「白」を最終的に頭蓋の白に見立てる事によって、そこに至る過程の部分が成立するわけですよね。 連想の枝葉を切り落としながら、頭蓋の白に接近していく様子を描いていく。雪を冒頭に持ち、雲を次ぎに添えて安直な白の連想を断ち切った上で、次に真綿のイメージから血や、燃やすイメージで一気に不穏になる。その理由がよく分からないんですが、最終的に頭蓋が出てくる事によって、骨以外の有機物が全て真っ黒という煙となって燃え上がる感じに繋がる。それが、ただ人体を燃やした結果人から黒が抜けて白になるというだけで終わらず、潔白のイメージに繋げていく。処刑というプロセスをかませる事で、「証」の題字が生きてきます。 なぜ白は白なのか。それは頭蓋が白いからで終わるのではない。そこに物語というニュアンスを接ぎ木していくことで、なんというのか面白くなりますね。
0まりもさん、コメントありがとうございます。レスが遅くなって申し訳ありません。 なんというタイミングか、この詩の投稿後に身内に不幸があり、久しぶりにまた原初の「白」を目の当たりにする事態になっておりました。 さて、表現についても内容についても、ご賢察いただき大変嬉しいです。 「いろいろ」という言葉がある通り、視覚頼りの人間にとって、「色」は様々な要素を象徴していると思います。おっしゃる通り、愛とか想いといった人の内面的なものも、よく色で表現されますね。 そして漢字もまた、通用されている意味だけでなく、そもそもの成り立ちとか読みの響きなどによって様々なイメージを喚起します。 白という色と漢字、それぞれの重層性がうまく響き合っていたらいいなと思います。
0百均さん、コメントありがとうございます。 漢字の由来が怖いのは、もともとは儀式のために創られた文字だからだと聞いています。日常生活に使うものではなく、生贄とか祭器とかいった呪術的なアイテムの類として成立したということでしょう。 しかし白の字源が頭蓋であるという説を聞いた時は、「雪とか雲とか、白いものはいくらでも身のまわりにあっただろうに、よりによってなぜ白骨死体で色を定義したのか」と思ったものでした(もっとも雪も雲も不定形なので、象形文字にするには不向きですが)。 それはそれとして、「面白い」は私にとって最大の誉め言葉、大変光栄です。 潔白を証明すること、それも集団(あるいは社会)に対して個人がそれを訴えること、は、不穏な時代はもちろん現代でもとても難しい。訴えられる側も、「信じてあげたい」だけでは信じるわけにはいかなくて、証を最後まで見届けるにはそれなりの覚悟が要る。そのあたりの緊張感を、物語という形でお楽しみいただけたら幸いです。
0