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それは散歩
少女は地獄に落ちた。しかし、そこがどこかさえも分からなかった少女はまず、縫いぐるみのシュレフトを探す。辺りは赤い洞窟のようで、萎れた細い指のような鍾乳石が、黒々と天井から垂れていた。少女はそれから、母親の名前を呼ぶ。父親の名前も、仕方なく呼んだ。 そういえば、今日は遊び疲れて家に着くと、そのまま何もせずに寝てしまったんだった。そう思って少女は近くの、砕けた死骸の胡椒が浮いた、池にフラフラと歩み寄る。 喉の乾きや髪のベタベタは、この水じゃ取れないと思った少女は、不意に、首に着けていたペンダントを落とした。すると、池が息を吹き返す。かつての若き泉の記憶を思い出し、愛していたあの青空の肖像画を、少女に自慢するように水面に見せ上げた。 「ありがとう」と、少女は泡の頬にキスをして、しばらくその長い髪を洗っていた。 邪鬼らがそれを覗いている。洞窟の壁に空いている、砂粒ほどの穴から覗く。冷徹に燃えた赤い目で、死地の光彩をみつめている。 邪鬼の一人が鎌を担ぎ、少女の背後に沈み寄る。池は息を止め、絵画を隠して錆色の扉を閉めた。少女は振り返る。世界と、対面する。 鬼のツノ、ねじ曲がる黒い顔よりも、少女はその鎌が鏡のように、綺麗で綺麗でビックリした! 邪鬼の衝動は鎌を滑り、少女の首を殺意は目指す。ああ、近くにきたきたと、少女は鏡に首を差し出した。なんとそこには、シュレフトが映っている! 鎌に飛び込み消える少女。洞窟が揺れにゆれ憤る。混乱する邪鬼は鎌を振り回して、それから、刃に貼りつくように世界を覗いた。 「ごはんよ」と、母の声がいつもより響いている。起きるとシュレフトの、ボタンでできた目と目が合った。窓の外から、犬の鳴き声が聞こえる。たぶん、きっとそれは、ツノの生えた人面犬。きっと、私になついてくれそうな気がする。「ごはんよ」と、人面犬も、吠えている。
それは散歩 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 805.1
お気に入り数: 1
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2024-02-03
コメント日時 2024-02-10
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
物凄い世界観をコンパクトに仕上げていると思いました。所々にユーモア(父親の名前も、仕方なく呼んだ。少女はその鎌が鏡のように、綺麗で綺麗でビックリした!なんとそこには、シュレフトが映っている!)を複数個散りばめられているので、意図的であるかと推測しますが、それは非現実的な世界に、身近な現実を落とし込むような手法だと感じました。作品の内容と乖離するような、さり気のない表題にも心をくすぐられます。文章・表現力の高さ、読み易さと読後の満足感もあり、総合的に非常に面白く感じました。この世界のイメージが具現化される際のプロットがあれば読みたいなと思いましたし(最後に登場した人面犬、邪鬼なのだろうか等)、多分Anotherとして少女とシュレフトの物語が書けそうですねと思いました。
1ハンドメイドと言うか、習得中の言語で書かれているような特徴がみられる気がします。 地獄というのがポイントですね。少女はそれでもけなげに。ハンドメイド的な感じがするのは、 時間についての扱い方です。どこから物語が始まるか、この作品では、世界を提示するのに、 急に始まります。それも一つの物語り方。最後で、夢とわかる。でも、実は眠っているのが、 現実なのか、もはや夢が現実にとって代わってしまったのか、奇妙な世界に生きることになる。 タモリの、『世にも奇妙な物語』で放送されていそうな感じがします。
1コメント、ありがとうございます。 とても鋭い考察だと思いました。形はかなり変わりましたが、超初期の構想を記したいと思います。 私の詩作のエネルギーの中には、シュルレアリスムが一つ底流しているのですが、オートマティズムによる予期せぬ隻語の衝突、そこから放たれるグロテスクやユーモアなどの光量を調べたりしていました。 ある日ふと、この言葉の衝突実験は二次元的で単調になってきたと感じ、それじゃあ三次元的に衝突を起こさせようと考えたのが始まりですね。安直ですが、初めに浮かんできたのが世界観の衝突です。異世界転生ラノベを詩に持ってきて、異世界転生詩というようなものの試行をしようと考えました。1.5A様の、非現実に現実を落とし込む、という解釈はまさにドンピシャでビックリした!(失礼しました) ただ、課題が多く残る詩だなと、この場に永訣の念で投稿した次第です。具体的には、少女の世界観が強すぎることですね。もっと、双方の世界観が弾けて混ざり合い、原型を思い出せないくらいに外してナンセンスを目指したいなと思いました。最終連に人面犬が残っているのは、そのせいでしょうね。完全な現実には戻ってこさせたくなかった。 この実験を皮切りに、三次元的シュルレアリスム(造語ですが)が追究できればな、と、そんな感じです。 また、何かあればお答えしたいです。感想、ありがとうございます。
1習得中の言語で書かれている特徴____ 興味深いですね。日本語で考えて、日本語で書いてました。もちろん、母語です。 ただ、私は全うに日本語を壊すことを目標としているので、そうなると、日本語のしがらみの何かから脱け出せている兆しがあるのでしょうか……? 時間の扱い方にその特徴があるとのことですね、自己分析、深めてみたいと思います。感想、ありがとうございます。
1物語として機能してしまっている、言葉のセンスもあって読ませることができる。んだから広がれば深めればほんとものがたりとして面白くなりそうだよね、でしかなかった。現代詩として三次元的シュルレアリスム(凄い造語ですね)を目指しミハイさんの中では試行錯誤したのだろうけど。例えば唐突に残される人面犬も、内容の殆どを占める邪鬼というインパクトも、そのものだけがかたちになりナンセンスを目指すにしても異世界ではありえることで当たり前が強すぎるわけですね。そのなかで少女自体が当たり前に立ってしまうので、じっさい少女自体が異世界に適応してしまってナンセンスに適ってない、ということです。一連めがいいだけに、その後の連がただただ異世界を表するために書かれた文面だけにあり、普通に読めてしまった。ぱっと読んで小説のプロットみたいだなと思いました。Titleだけがナンセンスの名残でしょうかね。連と連のあいだにもっと、現実とのリンクみたいなナンセンスを組み込んでみるとか(わたしは台所で苹果の芯を戻すように手のひらを返しますとか(適当すぎるか(-_-;))そういった一種仕方ない逃げのような作業を経て何か閃くのかもしれませんね。ミハイさんの世界はわたしにはまったく思いつかない試みばかりですから、なんか楽しみにしています
1よくは理解できませんでしたがとにかく なんか凄いぞこれはという気持ちがしました。
1感想、ありがとうございます。 この詩に関連して、散文詩ってなんぞや、も突き詰めていきたいですね。自身、詩だけでなく小説にも挑戦してみてるので。これは小説寄りだ、もしくは詩寄りだ、という風に感覚を身につけていきたいです。 A・O・Iさんの意見、とても参考になります。ありがとうございます。
1>少女は地獄に落ちた。 西条八十のトミノの地獄をどうしても連想してしまう。トミノは女の子だと思っているゼッケンです、ミハイさん、こんにちは。それを天沢退二郎の怒れる自暴自棄を経由させて怒れるカワイイに接続したものという印象を抱きました。 >ツノの生えた人面犬。きっと、私になついてくれそうな気がする。 いよいよ地獄が地上に顔を出しつつあっても、無垢な少女性で飼い慣らせると信じたい。人面犬も「ごはんよ」と我々の日常を保証すると言っている。やっぱり、現状、わたしたち、騙されてる気がするんだよ、とミハイさんは言っているんじゃないかな。
1西条八十さんの「トミノの地獄」、初めて知りました。天沢退二郎さんは、まだ数作品しか読めてないのでいつか読み込みたいなと思っている一詩人ですね。 少女の無垢の力と、人面犬の狂気の力がまだ現実でせめぎ合う、結末の解釈はまさにこの作品の解像度を上げているなと思いました。ありがとうございます。
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