髪を切った。長い長い、ながい、髪だった。わたしの想いをいちばん傍で見守っていたそれは、ずいぶんあっさりとなくなってしまった。仄暗い朝焼けも深夜の雨音も、送れなかった言葉も。すべてを知っていた。鏡に映るのは、心の中とはまるでちぐはぐで、わたしはわたしじゃなくなった気がした。失恋だなんて。こんな地獄から見たらそれすらも美しかった。正しく機能している世界だと思った。はじめから恋に落ちる自由さえなかったから。ただ、どうしようもなくて抱えきれなくて可哀想で、溢れて零れ落ちちゃう前に、なかったことにしたかった。もう忘れてしまいたかった。目が覚めれば、前よりずっと軽いはずなのに、目が覚めれば、期待でスマホに手が伸びる。失恋したから想いを断ち切るために髪をきる。なんて方程式は成り立っても、想いを断ち切りたいから髪をきるという方程式は成り立たなかったみたい。こんなことなら、零れて溢れさせてしまえばよかった。君が褒めてくれたのは、わたしの長い髪だったのに。
作品データ
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作成日時 2023-11-14
コメント日時 2023-11-18
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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2024/11/21 23時37分38秒現在
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改行のない言葉の羅列がより失恋の切迫した思いを伝え、胸にぐさりと突き刺さりました。髪を切ることが、失恋のやるせない思いをぶつける一種の自傷行為のようにも感じました。「失恋したから髪を切る」という事自体が少々ステレオタイプになってきていると感じるこのご時世ですが、どんな時代でも失恋はしくしくと胸が痛むものですね…
0失恋と辞書を引けば「髪の毛を短く切ること」と書いてありそうなくらい普遍的なテーマだと思うのですが、わたしの感情の機微がしっかりとまとまりよく表現されていて、その動きをなぞるように読み入ることができました。 はじめから恋に落ちる自由さえなかったから。君が褒めてくれたのは、の箇所から対象が同性かと憶測もしましたが、純粋に異性愛として作品を読むと、君が褒めてくれたのは、わたしの長い髪だったのに。という終わり方に若干唐突さを感じました。それは作中において、君に関する記述がないためだと思います。例えば「君のお姉さんは長い髪をしていた」みたいな文章をさし込まれたら、君という存在が、匿名的なものから、読み手の想像を膨らませてくれる役割として意味を変化させていくのではないかと、そんなふうに思いました。
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