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わたしは水になりたい
滔々と水が流れていく。 清く、涼やかな水だ。 それは滾々と湧き上がり、溜まることなく、淀むことなく流れていく。 木々の緑を溶かし込んだ色で、柔らかな日差しを浴びてキラキラと輝いている。 わたしは水の流れを見ている。 試みに、足元に落ちていた木の枝を差し込んでみる。 水は木の枝にぶつかり、一瞬だけ動揺を見せ大きく盛り上がるが、すぐに冷静さを取り戻して流れ下っていく。 わたしは水が好きだ。 その透き通った美しさは宝石にも比肩する。 その柔らかなあり方を大変好ましく思う。 まさに、老子が「上善は水の如し」と記した通りだ。 では翻って、わたし自身はどうだろうか。 わたしはわたしのことが嫌いだ。 わたしは美しくなどなく、誰からも愛されない。 誰もがわたしを見て路傍の石を見るような、無関心の視線を投げつける。 そのたびにわたしはひとり静かに、そして深く傷ついていく。 わたしはわたしのことが嫌いだ。 しかしそれは、わたしの自己愛が歪な形で湧き上がっているに過ぎないのかもしれない。 ここで湧き上がっているのは、清冽な水などではなく、淀みきった薄暗い感情だ。 感情の奔流は濁流となってわたしの中を駆け巡り、その強力な侵食作用でわたしを削り取っていく。 わたしは磨り減っていく。 わたしにはなにもわからない。 わたしにもなにかがわかる日が来るのだろうか? なにもわからないわたしは、水になりたい。 願わくは、その清さを好んでくれる美しい魚を住まわせる事のできるような、澄み渡った水に。
わたしは水になりたい ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1105.6
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-01-07
コメント日時 2018-02-12
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
最初の水偏しばりには興奮しました! 「濁流」あたりから「またくるか⁉︎ またくるか⁉︎」となったのですが、こなかったので、最後「澄み渡った水に」で「ちょっと水しばりだー!」となりました。
0水と思想の相性みたいなのものは、言われてみると確かに老子でやったよなぁみたいな事を思い出しました。思想とは、最終的に目指すべき理想があってそこにどうやって向かうべきか、みたいな事を最近なんとなく知ったのですが、本作の場合はその結末として >なにもわからないわたしは、水になりたい。 >願わくは、その清さを好んでくれる美しい魚を住まわせる事のできるような、澄み渡った水に。 とあり、もの凄く共感しました。水と思想の相性は本当にいいと思うのは、「なにもわからないわたし」のような存在を受け入れてくれる物としての水という器の大きさだと思います。判断を下す事が言語の大きな役割であるように、人間として生きる以上判断は常につきもので、それらを下すには毎回エネルギーを使う物だと僕は思っているのですが、水そのもの自体にはそのような思考がなく、ただ流れていくだけという無常だけがあるような感じを思うからです。みたいな感じをなんとなく今読んでいて思いました。 >わたしは水が好きだ。 >その透き通った美しさは宝石にも比肩する。 >その柔らかなあり方を大変好ましく思う。 >まさに、老子が「上善は水の如し」と記した通りだ。 > >では翻って、わたし自身はどうだろうか。 >わたしはわたしのことが嫌いだ。 >わたしは美しくなどなく、誰からも愛されない。 >誰もがわたしを見て路傍の石を見るような、無関心の視線を投げつける。 >そのたびにわたしはひとり静かに、そして深く傷ついていく。 >わたしはわたしのことが嫌いだ。 >しかしそれは、わたしの自己愛が歪な形で湧き上がっているに過ぎないのかもしれない。 >ここで湧き上がっているのは、清冽な水などではなく、淀みきった薄暗い感情だ。 >感情の奔流は濁流となってわたしの中を駆け巡り、その強力な侵食作用でわたしを削り取っていく。 >わたしは磨り減っていく。 僕も自分の事が嫌いなのですが、なんで自分の事が嫌いなのかという所は本当に考えるだけでも難しいし、それを表明するのも難しいと思いますが、本作はそれらを端的に書いていて、単純に凄いという感想しか出ませんし、正に水のようだと思います。話の構成としても、綺麗な水の話からの翻り方が巧みで、好きです。
0花緒@B-REVIEW様 コメントありがとうございます。すっかり遅くなってしまいましたが、言われてみれば散文的ですね。企図としては、水をテーマに水編の漢字をできるだけ使ってみようというもので、それゆえ型になっておらずに散文のような印象になっているのかもしれません。
0緑川七十七様 コメントありがとうございます。すっかり遅くなってしまい申し訳ありません。水偏縛りは企図した部分なので、そう感じていただいて嬉しいです。おっしゃる通り、最初はうまくいったのですがそれ以降なかなか水偏で統一することができず。精進します。
0百均@B-REVIEW ON様 コメントありがとうございます。孟子が「水は低きに流れ、人は易きに流れる」といった言葉を残し、タレスも「万物の根源は水である」といった言葉を残しているように、水というものは哲学では重要な要素だったのではないでしょうか、などと考えています。これからも色々と考え続けていきたいです。
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