此岸 - B-REVIEW
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ことば

ことばという幻想

純粋な疑問が織りなす美しさ。答えを探す途中に見た景色。

花骸

大人用おむつの中で

すごい

これ好きです 世界はどう終わっていくのだろうという現代の不安感を感じます。



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此岸    

商店街の福引で竹見一毅の直筆レターが当たった。四等賞だった。 私自身すこしも竹見一毅を知らなかったけれども、四等賞なのだから有名なのだろう。 クリネックスやビスコくらいには。 三日後、郵便受けに入っていた封筒はざっくりした手漉き和紙ので、何だか竹見君らしいなと私は思った。便箋も同じ風合いのもので、センスの良さを感じさせた。 だが、そこに綴られていた竹見一毅の身の上はじつに驚愕すべきものであった。 私は自分の無知を深く恥じた。否、むしろ激しい憤りを覚えていた。 私は電話機を取り、最寄りの民生委員の番号を回した。 もしもし、竹見一毅の件で御相談があるのですが? ああ、竹見一毅さんね、聞いておりますよ。厄介な案件だ。 そんな悠長に構えている場合ですか。 ええ、ええ、まったく剣呑な事態なのだが、何とも糸口が見付からないのです。 糸口。 私は商店街振興会事務局のドアを叩いていた。 すいません、先日の福引で四等賞が当たったのですが。 交換ならお断りですよ、福引ですからね。 いえそうではなくて、竹見一毅の事をご存知ないかと思って。 はて、竹見一毅ですか。景品は協賛店から提供されるだけですからね。 どちらのお店か分かりますか? 辻戸さん、四等賞出してくれたのは何処だったかね? あんな変わった物出すのは魁星舎さんだろう。 値打ちがさっぱりわからなくて困ったから四等賞にしたのだ。 ああそうだそうだ、魁星舎さんなら何か知ってる筈だ。 先ず電話で訊ねてみよう、無駄足になるからね。 魁星舎さんは教師をしていた祖父が贔屓にしていた古書店だった。 商店街の反対側の端だから、確かに少し面倒だった。 出ないな、出掛けているのかな? まさかそんなわけないだろう。 レジ脇のの置物みたいな人じゃないか。 それにしても妙だな。 あの、私直接伺ってみます。 そうしてくれるかい、悪いねえ。 魁星舎の門構えは、記憶の中のそれより随分と厳めしく見えた。年季が入ったからかも知れない。或いは私自身年を経た所為かも知れなかった。 今日は。 私が入り口を潜ると直ぐ、馴染みのあるあの声が返ってきた。 おや、成道さんのお嬢さんだね。こりゃあ随分綺麗になったもんだ。 その節はお世話になりました。 成道さんの注文はむつかしいのが多くてね。 御迷惑じゃなかったら良いのですが。 いえいえ、迷惑だなんて少しも。成道さんには大変勉強させて貰いました。内身は私にはさっぱりでしたが、世の中にはこんな研究をされている人もいるのだなあとね。私がこの商売を続けていられるのもね、成道さんの御蔭ですよ。 すっかり祖父の思い出話に感けている間に日は傾いて、気付けば本棚には夕辺の西陽が射しこんできていた。魁星舎の扉に嵌っている旧い硝子板は僅かに歪んでいて、店の中に緩々と波模様を描いた。 海の底にいる様だ、と私は思った。



此岸 ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 1
P V 数 : 1038.0
お気に入り数: 0
投票数   : 0
ポイント数 : 54

作成日時 2023-07-21
コメント日時 2023-07-23
#現代詩 #縦書き
項目全期間(2025/04/12現在)投稿後10日間
叙情性55
前衛性1010
可読性1010
エンタメ77
技巧1010
音韻55
構成77
総合ポイント5454
 平均値  中央値 
叙情性55
前衛性1010
可読性1010
 エンタメ77
技巧1010
音韻55
構成77
総合5454
閲覧指数:1038.0
2025/04/12 11時37分04秒現在
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    作品に書かれた推薦文

此岸 コメントセクション

コメント数(1)
コーリャ
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(2023-07-23)

あらなんですかね少女マンガの始まりみたいです もっと続きが読みたい感じあり なんだか耳をすませばを思い出しました

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