今夜は難解な映画を観たいものだ
それはたぶん
青春の日々に感じていた優越感を
また一度感じたいから
ただでさえ物事を貶しがちで
物事を難しく考えがちな若者たち
中でも僕の気難しさは甚だしくて
ほとんど病気と言えるほどで
何かこれと言って学習している意識はなく
それでいて己の洞察は鋭く深いと思い込み
いつか大成すると信じていた
群れを成す若者たちのいる街の上を跨ぐ
名を忘れた橋を渡って行ったミニシアター
あの頃観たレイトショーみたいな難しいのを
今夜も観たいと思っているわけだ
ああ落ちるところまで落ちたよ
何の芸もなかったわけでもないのに
なぜか濁流に流されて
遠い彼方の闇に行き着いた善良な奴らを
僕は幾人かは知っているし
僕だって奴らと同類なんだと共感するね
今にして思う
奴らの時代は来なかったのだ
奴らの親の世代は太陽ではなかった
奴らを明るく照らすことができなかった
坊主頭では接客業務はできないのと同じで
笑顔なしでは何事もつとまらない
現代詩人だって
写真を撮られる時くらいは微笑むものだろ
何が快いのか分からないけどね
晴れた昼に街を行けば
さまざまな世代の人間を陽が平等に照らす
あなたの世代の地層も見える
他の層よりひときわ暗く静かな断面
今なお内向的で思い悩んでいる
あなたにこそ
ミニシアターのレイトショーは相応しい
スクリーンの光があなたの顔を控え目に
行き届いた思慮をこめて照らす
文学部なのに耳が悪くて
外国語の勉強を諦めざるを得なかった僕
日本語だけで生きて行こうと覚悟した
そんなことざらにある話だけど
ショッキングなことではあるよね
それでも得体の知れぬ自信は揺るがなかった
ああ落ちるところまで落ちたよ
僕らの時代は来なかったらしい
せめて青春の日々に観た
いくつかの難解な映画をここにまた観て
それが放つ仄かな光を浴びて
優越感
優越感を感じたいのさ
作品データ
コメント数 : 8
P V 数 : 1335.3
お気に入り数: 1
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ポイント数 : 0
作成日時 2023-03-15
コメント日時 2023-04-05
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2025/01/15現在) | 投稿後10日間 |
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2025/01/15 16時46分47秒現在
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本当にぶっちゃけ、優越感を感じたいという想いで生きてるよな、と改めて思いました。自分に正直になれる作品だと思いました。
0はじめまして。 何となくわかるような気がします。 私も若い頃は、レイトショーではありませんでしたが、ミニシアターにチェコやポーランドの映画を観に行きました。 優越感に浸りたいという思いは誰にでもあるとは思いますが、特に若者にはその傾向が強いのでしょう。根拠のない、あるいは根拠の薄い優越感ですね。私にもありました。 3連目にある、名を忘れた橋とは、今と過去とを繋ぐ橋でしょうか。何か幻想的な印象を受けます。 また、5連目の、 「奴らの親の世代は太陽ではなかった 奴らを明るく照らすことができなかった」 とは、世代間格差あるいは前の世代の無責任さを表したものでしょうか。 そして、その次の連の、 「あなたの世代の地層も見える 他の層よりひときわ暗く静かな断面」 この地層の暗さ故に、今、詩を書いている。そんな気もします。 末尾で優越感を感じたいと明言しているところは、何かやるせない、もの哀しさを感じます。
0文学のお手本の様な作品 すんなりと入って出て行ける レイトショーと言えば 映画TAXIを思い出すな ちょっといやらしい映画に連れて行かれて女性がブチ切れて帰るシーン アレがレイトショーだったかどうかはわからないけど食事の後だったので結構深い時間だった気がする TAXIと同じ様に雰囲気のある作品 またカッコいいよねって感想です 海軍 少将
0>何が快いのか分からないけどね ここは皮肉が効いていて胸がすきます >他の層よりひときわ暗く静かな断面 面白い表現です 優越感は、ドキドキしますよね。自分を高めてくれて。そういうものは、いつか、だれかと共有することで一層高められたものとなると思います。純粋さと言ってもいいのではないでしょうか。どことない諦めが、森田童子のような世界かなと思いました。
0お読み下さりありがとうございます。優越感、これなしでは自分の存在意識は心地悪くどこか不完全であるように思いますね。良き自惚れであり、どんな自惚れとも同じで鼻持ちならないものではありますが、自己に満足できていない状況はちょっと耐えられない、だから人それぞれに何かに取り組んでいるのが人生であると思います。
0お読み下さりありがとうございます。 大学生時代のことを思い浮かべながら書きました。最近では自分は映像離れしてしまい、本か音楽を楽しんでいますが、あの頃は映画を観ることで栄養を摂取していたという自覚がありました。観ればそれだけ成長できるというような自覚がありました。本当のところはどうなのか分かりませんが、映画鑑賞が無意味であるというような極端な考えはないですね、必ず何か自分の成長に資するものがあったと信じます。 三連目の橋は強い優越感を象徴させるものとして書きつけましたが、実在する橋、正確には歩道橋ですが、それがモデルになっています。渋谷の歩道橋です。そして明かしてしまえば、ミニシアターも渋谷のユーロスペースを主に念頭において書きました。今はどうでしょうか、移転しているかもしれません。 同時代に生きながら異なる意識を持っているいくつかの世代。これらの世代が共生するということ。先立つ世代が必ず後の世代に強く影響を与えるという方向性。その影響に自然に反発してしまう若い世代。「我らの世代」が形成される仕組みというものに私はけっこう関心があります。そんな関心事を作品に組み込んであのような詩文になりました。 優越感、やっぱりこれは若い世代の方が自然に強く抱いているものだと思います。羨ましいです。
0お読み下さりありがとうございます。文学のお手本、面映いです笑。分かりやすい軽さのある作品です。TAXI、名前聞いたことあります。 カッコいいのはうれしいのですが、次はもっと、言うなれば「筋肉」のあるものを書いて、なおカッコいいものを書きたいです。いや、カッコよさもいいけれど、それを犠牲にしても。
0お読み下さりありがとうございます。 森田童子さんのことは知らなかったので、今、ユーチューブで聴いています。ちょっとはまりそうです。友人にフォーク野郎がいるのですが、なんで今まで教えてくれなかったのだろう。 私は詩人には難しい顔をしていてほしいですね、笑顔は、まあ、一瞬で通り抜けてほしいです。 優越感、まさに自己の存在意識の中身だと思っています、それが誰かと共有できたなら、そんなすばらしいことはないと思います。
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