バイト先の国道沿いの結婚式場で知り合った彼は「言葉的に正しい性交渉」と名乗った。
式場は教会風の巨大な建物で、その造りは柱塔らしき三角屋根の頂点に円いステンドグラスがあしらってあって豪華だったが、その立地が川原沿いの小規模な工場地帯にあることに加えて、結婚式場というその建物の本質的な正体とか、隣に中古車販売店と性玩具販売店があることから地元の大字あたりの人間は東日本的里山を背景にする、この建物のともすると重厚な一神教的な洗練を全く有り難がらない。
「言葉的に正しい性交渉」は一日中性行為と妊娠と出産について語っており。その他にはなにも話さなかった。それでも彼は結婚式場でのアルバイトを完璧にこなしていたのだ。しかもむしろ、彼と話しをしたがる人間が多いくらいであったことは不思議だった。
彼の語り口、その内容が具体的にどのようなものであるかついては、たいていの人が誰かから聞いたことが、あるいは聞かされたことが、あるいはほのめかされたことが、あるいはこちらから話したことがあるようなことだから、わざわざここに描写する必要はない。
ただし彼は絶対に、自慰と堕胎については語らなかったし、口腔交渉や後門交渉その他、生殖に繋がらないあらゆる「性行動」については語らなかった。彼は完全に道徳的だったのだ。
私が結婚式場でのアルバイトをやめて湖畔ボートのりばでアルバイトを始めてからしばらくた経ったが、「言葉的に正しい性交渉」はまだ、かの結婚式場でアルバイトを続けているらしい。
作品データ
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作成日時 2022-09-08
コメント日時 2022-10-16
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 2 | 2 |
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可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 6 | 6 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 0 | 0 |
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2024/11/21 19時53分02秒現在
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まさに正しい人だな、と思いました。そんな人に会ってみたい、そんな人でありたかった。文学とはそういったところにあるのかも知れませんね。
0お読みいただきありがとうございます 頂いた感想についての第一印象は、まじっすか、と思いました。
1コメントありがとうございます。 そうですね。「言葉的に正しい性交渉」さんのような人は現実社会に全く正しいとされて今も何の違和感もなくどこにでも存在を続けていると思います。
0後門交渉は肛門交渉でしょうか。面白いな乗りですね。虚構性の高さは、詩価を高めるのかもしれません。名前の通りの行動パタンを示すのですね。ステレオタイプな、よく知られている、誰でも知って居る様な性的な事を話すのでしょう。結婚式場でのアルバイトとの掛け持ち?も上手くやって居るそうで、私はそこを止めても彼は止めない。「らしい」がどんなニュアンスか、読むたびに変わると思いました。
0コメント、ありがとうございます。 「ジョン・レノン対火星人」(旧題は「素晴らしい日本の戦争」ですが、私は旧題のほうが好きです)という小説が面白かったので、読んでみてください。
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