カップ麺 - B-REVIEW
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PICK UP - REVIEW

ことば

ことばという幻想

純粋な疑問が織りなす美しさ。答えを探す途中に見た景色。

花骸

大人用おむつの中で

すごい

これ好きです 世界はどう終わっていくのだろうという現代の不安感を感じます。



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カップ麺    

 そのありふれた発泡スチロール製の器の面に───熱湯を注いで三分───。この文言によりしばし人々は様々に態をとることとなる。ボクサー気取りでfighting pauseを決めるもの、体温計を脇にはさみ熱を測るもの、割り箸をスティック変わりにしてにわかドラマーと化す、SUUNTOウォッチを手に素早く上蓋をめくりあげる強者、LINEのやり取りに忙しくなる、写真に撮りInstagramに上げる、fighting pauseに酔いしれ麺をのばしてしまう若輩者、ただ瞼を閉じて瞑想に耽る・・・・・・。とある時代。米国から禅ブームとやらに乗って我が日本国にやって来た白い肌をした若者。彼はその数日後、悟りを開いたという。まるでハンバーガーなんだなあと、対談のなかで老師が笑いながら語っていた。  日夜。一つのカップ麺を前にして様々に態をとる人々。湯気にまみれてひたすらかっこむ人々。飲み干すスープの最後の一滴が襞を伝い五臓へ流れ落ちていく。アーッという雄叫び、蒸気した膚に浮き上がる汗。さとり サ鳥 SATORI。    *    多くのものに愛され胃袋を満たし断固たる地位を築いているが、偉大な歴史の始まりは激烈であった。  堅牢な鉄製の丼頭をした組織aが、奥深い雪山にある山荘を舞台にして大規模な銃撃戦を繰り広げた。日に日に激しさを増す攻防の最中に、防弾製の鎧で身を固める鯨頭をしたもう一つの組織bが拡声器を向け、山荘に立て籠る丼頭へ延々と投降を呼び掛けていた。  あたり一面をしんしんと覆う雪の降りしきる寒空の下。膠着が続き長期戦の様相を呈する中、当時、購入者にもれなく付属していたプラスチックのフォークでbがづるづるとなにかをかっこみはじめた。皆が神妙な面持ちで墓標のように立ち尽くしたまま攻防は一旦小休止となり、湯気と白い息とにまみれた悲壮な姿がブラウン管を通して茶の間へ流れ、それは世に出回り始める。  ロックンロールが熱く世を覆っていたが次第にほとぼりは冷め、下火になるとともにフォークに取って変わられた。息苦しい四畳半の部屋の隅で身を寄せあいづるづるとすすっているうちに、地に突きたてられた二本の箸が互いにがなりたてあう尖った笑いがあふれた。そんな痛々しい賑わいが障ったのかお上がコントロールを強めると、あちらこちらでひらひらとナイフが飛び交うようになった。その先は主に露天風呂で溺れかけていた赤ら顔のサルと呼ばれた集団だった。もちろんその間も休むことなく世の多くの者たちの口中へ吸い込まれていき、しっかり噛みちぎられ胃袋へとおさめられていった。  半世紀を越え進化を続け、国際化と競争のなか、まぶされるかやくの種類は増し、味には激しい辛さをともなうようになった。       *       安 藤 百 福 世の安らかなるもののため百の幸福を 男の、陰りを彫りこんだ貌が永遠のような無言を見つめている。       * 今日では地球外へ飛び出し貴重な宇宙保存食としての地位にのぼり詰めている。上昇するシャトルの狭い空間内に設えられた小さな小さな窓からどこまでも広がる終わりなき闇の彼方に蒼くいきずく完全なる球体の星は写真とは違い一つの美しい鉱物を愛でるかのような極上の気分を味わわせ、ほのかな懐かしみと桃源郷の夢心地とでじっくりときほぐしてくれる。


カップ麺 ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 6
P V 数 : 980.5
お気に入り数: 0
投票数   : 0
ポイント数 : 0

作成日時 2017-11-16
コメント日時 2017-11-23
項目全期間(2025/04/10現在)投稿後10日間
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閲覧指数:980.5
2025/04/10 21時21分08秒現在
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    作品に書かれた推薦文

カップ麺 コメントセクション

コメント数(6)
まりも
(2017-11-18)

インスタント焼きそばの「作り方」を(文豪の誰それが)書いてみたら・・・という「たられば」が、Twitterに流れていたことがあったのを思い出しました。特に、一連目。簡便なもの、安易に済ませられてしまうもの・・・の扱いや、そうした「ささいなもの」への思い入れの在り方などに、各人の個性が出たりもしますね。 個人的に興味を惹かれたのが、2連目。私の生まれ年は、浅間山荘事件の年なのですね。2度にわたる安保闘争が、学生側、あるいは日本側の敗北、として、意識に決定づけられた時代の、終焉となった事件。 ウルトラマンの3分は、カップ麺からの連想なのか、逆にウルトラマンから「3分」が導かれたのか、よくわかりませんが(最近は、4分の麺とかもありますね) 南極の昭和基地で、温かいものを食べたい(食べさせたい)という思いから即席めんが生まれた、と聞いたことがあります(袋に入った、四角く固めてある方) そのうち、カップ麺にあらゆる栄養素が搭載され、これひとつでOKなんて時代、がくる、のかも・・・。

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白島真
(2017-11-18)

カップ麺幻想といいますか、賛歌といいますか 面白く読ませてもらいました。 あさま山荘事件の時は、警察の労をねぎらい定価の半額で売るなどしたことが 功を奏して、その後のカップ麺の認知度は飛躍的に高まったようです。 野口聡一宇宙飛行士が宇宙ステーションで「Space Ram (とんこつ味)」を食べ、宇宙でラーメンを食べた最初の人となったことも話題になりましたね。 正直、台湾出身の安藤百福が日清のチキンラーメンだけでなく、カップヌードルまで、生みの親であったことは知りませんでした。チキンラーメンは小3か小4の頃、母が新発売だと言って買ってきて食べたことを鮮明に覚えています。どんぶりの上に平皿を被せ、まつこと3分でしたが、こんなうまいものがあるのかと、それ以後、おやつはチキンラーメンが増えましたね。TVでも「類似品にご注意ください」なんてのがしょっちゅう流れていました。(パケージの縞模様の数が違ったそうで) 本題に戻れば、とくに分かりにくい描写はないのですが、 ・まるでハンバーガーなんだなあと(対談を読んでないので意味不明) ・さとり サ鳥 SATORI(白人青年はカップ麺を食べてさとりをひらいた?) ・下火になるとともにフォークに取って変わられた。 (日常用品としてのフォークとフォークソングをかけている?) ・露天風呂で溺れかけていた赤ら顔のサル(日本赤軍か?w) 散文としては面白かったですが、詩情というものは残念ながら、感じられなかったです。 かなり以前に読んだ(タイトルは忘失)、猫の写真を撮るため、ぐんぐんフォーカスしていき ディテールを表現していった作品、あれはインパクトがありました。 あのような作品をまた読ませて欲しいものです。

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survof
(2017-11-18)

実際の歴史と被せて書かれているところが本当は作者としても大事なところなのかもしれないしそうではないかもしれないしなどと考えつつ、個人的にはそこがちょっと残念でした。実際の歴史に絡めた話しから始まって最後には話がぶっ飛んだフィクションにまで飛躍する超絶な超展開だったらもっと面白かったかもしれないな、、と思いました。。が、純粋に読み物としては非常に面白かったです!そしてカップ麺食べたくなりました。今家にストックがないので買いにいこうかな...。

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渡辺八畳
(2017-11-19)

私は結構詩を途中まで読んでそこでやめてしまうことがありまして。最後まで読破するほどの価値がある詩が世にいくらあろうか。リソース割ける余裕はこちらには無いのだから良くないものならばすぐやめる。 この詩は最後まで淀むことなく読み通せたのでその時点で私の中では評価が高い。カップ麺に関連する様々な事象がよいタイミングで展開されていくので飽きさせない。カップ麺という一つのテーマでもこのように詩が作れるのだな。詩語でないと詩は作れないと言う人もいるけどそんなことはないよな。 安藤百福、そうかそのように字を開くか。大喜利みたいでおおーと思った。

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湯煙
(2017-11-23)

まりもさん。ありがとうございます。一秒違わずきっちり計っていざといった原理主義的な待ち人が果たしていらっしゃるか否か?そんなことなどを考えたりします。安保や資本支配等といったイデオロギーをめぐる運動は形を変えながらも継続していますね。ゲバにバリケードや鉄球を打ち込むに時限爆弾にリンチにと。なんであんなことが可能だったんだ?ふと思いますが。ただ私は世代が下だからでしょうか。政治闘争よりもオウム事件‐1995‐宗教や震災、ツインタワー崩壊といった出来事に同時代的な関心を向けていましたね。 なぜ3分~か?はわからないですね。人が耐えうる時間の平均なのか?麺のつくりによって異なるのかもしれませんが。昭和基地のエピソードは聞いた記憶がありますね。 カップ麺の器がそのまま乗り物になってシュワッチ!と時空間をワープする、・・・ことはありえないでしょうね(笑。 白島真さん。ありがとうございます。ググりましたらどうもそのようですね。知りませんでした。神種であるテレビの神通力はすごかったみたいです。野口さんの食された人類発スペースラムですか、食べにくい感もなくはないですが(笑。 チキンラーメンの類似品?は知りませんでしたね。私はラーメンもそうですがスナック菓子として発売されたものもよく食べました。はい。 ・まるでハンバーガーを食べる感覚なんだなあ、とか何とかだったと思います。修行に入り悟ったと言って帰国した、そんなインスタントな感じを指摘されたのかと。 ・白人青年はおそらく僧堂にて物音を立てまくりながらお粥に沢庵に梅干しに味噌汁に・・・SATORIはったかと。 ・fork‐folk。そうですね、掛けています。 ・元闘士も入るのかもしれませんし、のぼせあがった戦士のといったところかもと。 猫写真の作品は現フォでしょうか。よくご存じで。ありがとうございます。そうですね、また考えてみます。と言ってもエッセイですが ^^;

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湯煙
(2017-11-23)

survofさん。ありがとうございます。実際のある歴史に沿ってですね。ですので特になにかあるというわけではないのですが、メタファーとしてといいますか、主題自体をカップ麺云々よりは別物として置いてはいました。フィクション性の有無や飛躍といったことはあまり意識にはなかったかと。タイトルは(カップ面)のほうがよいのかもしれませんが。カップ麺食べてください。はい ^^;。 祝儀敷さん。最後までお読みくださりありがとうございます。良かったです。 詩語では古いという方もおられますし、日本人による日本語での隠喩表現を世界レベルで高く評価されていたり。人なのか世代的なものなのか、わかりませんが。ポエジーをめぐる論考なり言説等あるようですね。安藤百福に大喜利ですか、こちらこそおおー!ですが(笑。このお名前がインパクトありなんでしょうね。

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