雲だけ。
列車の窓際から覗き込めるのは、
果汁の滴る太陽の残滓。
両掌に浮かぶ花は花ではなく、
干からびていくのを待つだけの、種無し。
YouTubeで連なるshort動画を眺めては、
常に点灯するシナプスと、死滅していく脳細胞をも感じる。
滑空していく燕が、羽根をもぎ取られ墜落する。
芭蕉の横顔は旅の途中でやつれ、
もう二度と色艶を取り戻すことはなかった。
座席に揺られ、黎明が訪れる間際、
同じ目をした群衆の大波が押し寄せる。
情報でもなく、動乱でもない声の渦に
飲み込まれては自分が消失していく。
触れはしない自我が完全に消滅した時、
花の言葉が聴こえてくる。
ワタシ、ワタシは今ドコニイマスカ?
ワタシ、ワタシは何ヲスレバヨイデスカ?
手を差し伸べても救い上げる人はいない。
花は自ら選んだ拒絶の中でのたうつしかない。
花びらを一枚ずつ潰されていく過程で、
可能性の断片を一つずつ失っていく最中に、
彼女の見た夢は奪われ消沈していく。
列車は終着駅に近づく。
太陽は渇き飢えて、尚且つ何も求めず、
鎮座しつつ干上がっていく。
芭蕉は寡黙になって久しく、
色を失った空に残るのは、
残酷なまでに茫洋とした、
雲だけ。
作品データ
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作成日時 2022-08-27
コメント日時 2022-08-27
#現代詩
#縦書き
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2024/11/23 17時03分09秒現在
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