言い逃れをするぐらいに相手よりも自分を可哀がってしまいました。結局は自分が可哀だけだと誰もがよくいうじゃないですか。微妙ですが、自分はそこ、ちょっとだけ、他人とは違うんだって、そう考えている節があったんですけどね。愛憎の終着地、つまり心中することが特別な出来事ではなくてね、女性との間に始終転がってる感じなんですよ。なかなか伝わり難い感覚なんでしょうけれども。ああ、こう説明すればわかってもらえるかな。借金ですよ、喩えるとすれば借金。十九歳でね、東京に出てくる頃、サラ金六社から三百万円借りたんですよね。一人でなんのアテもなく上京するには三百万くらい必要なんじゃなかろうかと、そう、何気に思ったんです。二十歳前でも仕事が一年間も続いていたら、サラ金から借りること出来ちゃうんですよ、当時はね。そんな古き良き時代でした。借金、踏み倒すつもりでしたよ、そうです、最初から。罪悪感について、それはいろんな人から今までもよく指摘されましたよ。罪悪感かあ。それ、考えちゃったら自分は生きて来れなかったんで。罪悪感なんて最後に記憶あるの高校二年生ぐらいの時じゃないかな。ああ友達に嘘ついちゃったな、みたいな。
返さないつもりで借りる、そういう、同じぐらいの感傷なんですよ、女性とのことって。よく憶えていないのと同じで。そう、経過が似ていますよね。陽子さんとの関係もそんなものだったかな。東京で働き出した初めての職場にね彼女いたんだけど、ある日お金が金庫から消えたの。そう、泥棒が入ってね。そん時に疑われたんだよね、陽子さんが。警察が来て全社員の指紋採取もされたんだけどね、彼女、何も言わずにそう、会社に何も言わずに退職届出して辞めたんだよね。その当時はまだ自分はそんなに陽子さんと仲良かったわけじゃなかったんだけれども、なんとなく気になって共通の同僚だった矢野さんに陽子さんの連絡先を訊いたのね。矢野さん、そう、思い出したけど、彼女はバクチクの櫻井さんのファンだったな。で、陽子さんは久我山で親戚が経営するアパートの一室に住んでいて、最初は電話でしゃべっていたんだけど、いつからか、なんとなく部屋に入れてくれるようになって。
そうだね、もう今の歳だから話せるんだけど、陽子さんと初めてだったかな、あんなにセックスをしたの初めてだった。毎日、陽子さんの部屋から仕事に通うようになってしまったんだけれども、ずっと明け方までやってた。というか、朝の光がカーテンの隙間から挿してくるなかで抱き合ってるの、とても気持ちよかったんだよね。思い出しちゃったけれども。ふたりで買い物したりとか二人乗りしながら自転車走らせたりとかパーフリ一緒に歌ったりとか、なんだかね、そんなことやってるうちにね、死にたくなったんだよね。ふたりっきりになりたかった。健全であれば結婚して〜子供持って〜マイホーム手に入れて〜って幸せを夢見るのだろうけれど、自分たちは不健全だったんだろうね。
じゃあ死のうかってなって、陽子さん、先に僕が殺すねって、いいよって陽子さん返事して。
まあ、自分は生き残ってしまったんですけど、ほんとうに罪悪感がない。罪悪感ってどういうものか自分に教えてくれそうな人、うん、そうだね、探してるっちゃ探しているかな。というか、クリスチャンにでもなろうかな、なんて考えてたりしますよ。
実をいうと、その、陽子さんが会社辞めることになった金庫の盗難事件、自分がやったんですよね。
作品データ
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作成日時 2022-08-17
コメント日時 2022-08-18
#縦書き
項目 | 全期間(2024/12/04現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 5 | 5 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 5 | 5 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合ポイント | 12 | 12 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 5 | 5 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 5 | 5 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 12 | 12 |
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2024/12/04 02時41分27秒現在
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夏休み真夜中に暇で空虚さが漂うなか、なんとなあくビーレビ開いて、何気なあくコメント書きをしていたら、ああ、久しぶりに詩(笑)を書くかあってなったんですよね。なんだか善人みたいなやつを(笑)ちょこちょこって、さらさらって書いちゃったんです。あー、やだなあ。最初からバレてましたか。わたし、小林秀雄の生まれ変わりなんですけど。
1これは良いインターネット怪文書。 やっぱり感性としてコピペ文化ってありますよね。 ビーレビ……というか詩として書かれた文章って、上手いし面白いし感動するけどインターネットの他のコンテンツと比べて良いってほどでもないと思うこと結構あり、俗っぽく読めて良かったです。まあこういう見方はゲルニカ(?なんか有名な絵でそんなやつありますよね)とApex Legendsを比べるような話だから意味のある議論ではあまりないですが。 「嘘かほんとかわからない、ほんとだったらちょっと面白い話」がこのプラットフォームじゃどの絶対温度であるのかを求める行為なんだと思いました。コピペ文化とバズり文化の類似点は。
1そだね。満願な出来事がUの世界だと可能なんだね。でも、ベルがすずだってしのぶくんは気がついていたんだね。 そう、そういう感じでどれだけの人々が僕やいすきさんにフェイドインしてくれてるだろう、なんて、詩(笑)の娯楽の可能性を考えちゃう。もっこり。
1陽子さんと言うと作家の村上春樹氏の妻でフォトグラファーの村上陽子氏を思い出すのですが、心中のくだりではどうしても太宰治を思い出してしまいます。借金を踏み倒すくだりなど、譬えると、と前置きがありながら、現実との区別が喪失して居る様な語りぶりだと思いました。久我山など、恐らく、現実の歴史から積み上げられた、イメージが重層的にあると思うのです。久我山自体は東京でしょうが、京都の方と歴史的な繋がりがあって(地名のイメージから)、重層的なイメージが感じられると思いました。
1鋭く開いてきましたね。村上春樹さんの奥さんも陽子ですし、荒木経惟さんのセンチメンタルな旅も陽子さんですし、自分の初恋相手、陽子という名前だったんですよね。その子、宝塚音楽学校を目指していたんで、そういう話も織り混ぜようかと思ったんですが、カット。そうそう、ヴィヨンの妻的なるものはもちろん沈めてみたんですよ。太宰治、良い人っぽいですよね。いや、良い人っぽく見せるのが上手いんですよね。あの人は。男が吐く言葉なんて全部嘘なのに(爆笑) ワザ。ワザ。
1なぜこれを描いたのか、ちょっとよくわかりませんでした。ピカレスクの美も無いし。美徳と反対の人物で、可愛くないし、美しくもない、それがリアリズムなのかもしれませんが、それが果たして価値があるか、というと、命に罪悪感も無く泥棒じゃ、ね。味気ないです。実話ではないことを祈ります。
2これはピカレスクなんですよね。いや、デティールがちょっとダサいなあとは思ったんですけど。あー、わたしが書く作品はすべて真実です。事実ではありませんが。
1コメントありがとうございます。作品とその人間は読めていらっしゃる。 ただ、、、ありがとうございます。
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