炊事場の朝は早い
ひと足遅れてきた嫁は
髪どめと小言をたずさえて
だまって冷や汁を平らげてしまう癖
なおしいや
このぼんくらと
流しに小鍋を放りつけては
ぐらぐらと
わたしのだらしなさに業を煮やして
たがは外れるし
回転釜も吹きこぼれるわの
てんやわんやで
いよいよ尖る三角巾
腹の虫がどうにもおさまらず
ボウルの戻しひじきに
日ごろの鬱憤も飛び散らかして
跳ねあがる血圧
えいと叩き
また叩いては叩く
落としごま油のたたききゅうりで
しょうがないので
すりおろしますかあなた
チューブがあるやろ
なんやて
残念それはねり胡麻です
じじいがえらそうに
そうや
小松菜に和えてごまかしたらええわ
人生は寸胴鍋に落ちた涙
わたしたちは
一番だしの上澄みを泳いでいく
生まれた川の匂いをたどる鮭のように
見事な流水紋をえがく白髪
べっ甲の髪どめに
醤油のぬくみを宿して
こんにゃくを千切る痩けた指も
ぐにゃりと曲がった腰も
実にいい塩梅で
その雑味すらいとおしく
もとより
こいつの引き立て役に徹するのが
わたしの務めなので
作品データ
コメント数 : 8
P V 数 : 940.2
お気に入り数: 0
投票数 : 3
ポイント数 : 0
作成日時 2022-08-05
コメント日時 2022-08-10
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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閲覧指数:940.2
2024/11/21 22時06分25秒現在
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細腕繁盛記とは全然違うと思うのですが、何となく、朝の連続テレビ小説の登場人物が、ナレーションまでもやり始めたようなそんな印象、ちょっと違うかもですね、メタフィジカルな意識、多分朝の連続小説ではありえない意識、引き立て役云々の部分みたいな意識は。ちょっと前の時代の、竈で飯を炊いていた時代の様な、そんな感じなのかもしれません。或いは大家族的な悲哀、そんなことも思いました。
0あ、いいですね。語りのテンポに炊事場のせわしさが見えてくるような印象があります。 夫婦で食事処でもやってきたのかな、それで働き手でもある奥さまよりも早く起き出して、朝食も早々と流しこんで仕込みに入る旦那さんと、そういう生活面での落ち度に悪態つきながらも追いかけで仕事をはじめる奥さま、そんな老夫婦の長年にわたる「共同作業」を想像してしまいます。 お互いの応酬が、堪えて大人しいよりも活き活きして感じられるのが微笑ましく印象的ですが、そこには苦い感情を経て得られるものを「わたし」が大事にしているからでしょう。連の展開もめりはりがあって、いい味がでていると思います。 ごちそうさまでした。
0生活感がたっぷりあって、食べ物に絡めて人生を例えるのは卑近さもあれど親密がまし、後者が勝っていたように思います。寸胴に落ちた涙の下りの連が好きです。
0そう言って頂けるとは嬉しいです。私自身意識していないところへのご指摘は新鮮で、実に勉強になります。ありがたいです。 和惣菜っぽい感情表現をしたくて、たたきキュウリになりました。個人的には叩くよりかじる専門です
0いいですね!おもしろいですそれ。連続テレビ小説のナレーションですか。さすが視点がアバンギャルドですねエイクピアさん。 今後の創作につながるヒントを頂き感謝です。朝の連続小説は盲点でしたね。くやしいな。 大家族的な悲哀はぜひともやってみたいです。韓流ドラマみたいなやつ。BGMは星野源の『くだらないの中に』ですね。く~だら~ない~の中に~ 愛が~ 人は 笑うように生~きる~
0言わんとするところを全て代弁して頂いてるかのような解説文でした。首を縦に振りながら「それです。それがやりたかったのです!」と思わず鼻息を荒げてしまいました。 語りのテンポや連の展開などのご指摘はとくに嬉しいものでした。独りよがりになりすぎていなかったか不安だったので。ありがたいお言葉でした。 定食屋を営む老夫婦を描きたかったんです。しかしながら厨房でなく炊事場としたり、今見直すと我ながら軸のブレが気になりました。 まだまだ推敲が足りないのでしょう。ほんとに詩は難しいです。励みになるコメントをありがとうございました。
0嬉しいコメントをありがとうございます。 寸胴に落ちた涙の連は、作り込みが足らなかったかなって正直自信なかったです。だって、一番だしを泳ぐって何。そんなことしたら2~3日は絶対ダシ臭いです身体。 年がら年中食べ物のことばかり考えてるので、気づくとこんな詩を書いてました。夏はそうめんに冷や汁ぶっかけるのやめられません。
1夫婦で飲食店をやっているのかもしれません。身体的コンプレックス、病変の予兆、現実は素材に転移して居るほどなのかもしれません。調理するために使う調理道具にも詩の命があると思いました。
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