いずれ私は旅立つ。両手に抱えきれるだけの本と手に余る肉体を携えて。どこでもいい。できれば、温泉のある街に行きたい。温泉はいいねえ。私の手に余る肉体を硫黄の臭いが溶かしてくれる。温泉以外の時間は眠ることなく本を読むのだ。この際どんな本でも構わない。そこに文字が書いてさえいればいい。本のおかげで食事に困ることはない。一ページ、一ページ丁寧に食べて生きるのも悪くないだろう。文字は体内で活発に働き、特に胃の中枢を刺激する。十ページも食べれば適度な満腹感と恍惚が訪れる。恍惚と温泉は実に相性がよく、心地よい酩酊の沼だ。私は本を食べ、温泉に浸かり、溶けていく肉体から染みでる文字を掬う。掬いあげた文字をまた本にして売るのだ。そうして得た富でまた次の温泉を探す。体が全て溶けてしまうまで、この旅は終わることはない。全て溶けきった私はもはや温泉なのか恍惚なのか文字なのか本なのか見分ける術がない。ぽたりぽたりと文字が滴る本を売り歩く恍惚温泉だ。しかし、実際の私はまだどこにも行っていない。まだ読んでいない本が多すぎて、温泉は遠すぎる。本にも文字にも満たない私を溶かしてくれる温泉がない。ああ、まだ味わっていないのだ、恍惚を。旅支度は整っているというのに、私は未だに肉体の蒙昧な奴隷だった。
作品データ
コメント数 : 13
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作成日時 2022-07-10
コメント日時 2022-07-30
#現代詩
#ビーレビ杯不参加
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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2024/11/21 23時40分34秒現在
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hahaha,読んでいて爆笑しました。最後の一文がいいですね。面白かったよ!
1コメントありがとうございます。爆笑してもらえてよかった。ジョークみたいものだから
0いいですねえ。 ローリングストーンな感じ。 ギャンブル好きの方は「旅打ち」というのをするそうです。 資金の続く限り打ち、そして旅をする。 「キープオンロックンロール」の日本語訳は「たいせつでたいへん」だと誰かが言っていました。 こんなのいいねえと思いながら1票入れさせていただきます。
1僕の場合は眠いときに書くと理想の人生を書いてしまうことが多い。なので、こんなに暑いのに温泉のことを書けるのはすごい温泉好きの方なのですね。もちろん本も 手に余る肉体ってセクシーな感じ、2回言うのが良いと思いました
1コメントありがとうございます。ローリングストーンですか、その観点はなかったので新鮮。ロックンロール!
1コメントありがとうございます。暑くてバグってるのですよ。事実、温泉旅行行きたくて書いた。手にあまると思ってしまうことがよくあるもんで笑
0コメントありがとうございます。 楽しんでもらえたようでよかったです。リズミカルな文章と言ってもらえて嬉しいです。安部公房いいですね。ぼくは「棒になった男」が好きです。
1温泉、酩酊の沼、恍惚、それらの語句が古風に迫ってくるモノローグな文体。良くも悪くもそれだけに終始していて、作者の器用さだけが読後に残りました。作者の器用さとは、何かを文書化する時に、その何かが平易に判読されやすく書けるということ。「肉体の蒙昧な奴隷」は未だ味わっていないのだから、自己認識としても魑魅魍魎で、他人にとってそれは判読されにくい可読性が滅法低い文体としてあるべきに思うのです。少し読者としての高望みなコメントを書いてしまいました。
1真っ先に「私」は「草食動物」だと思ったのですがまだ人である「私」が次の命について思いを馳せてることに気づき「思いどうりの生き物」になれればいいけどそんなに甘くないかも知れなせん
1コメントありがとうございます。 可読性にはこだわっているのですが、このコメント読んであえてズレを作るのも面白いかもしれないと思いました。
0コメントありがとうございます。 人生難しいっす。命とか生きるってなんなんだろうねって常々思います。
0温泉愛と言うのか、本愛と言うのか、全て溶け切ってと言うところが自然と一体化する志賀直哉の「暗夜行路」の大山(だいせん)のくだりを想起させて、全然内容は違いますが、興味深いと思いました。
1コメントありがとうございます。不勉強なんで志賀直哉読んだことがないのです。この機会に読んでみようと思います。
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