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交差でぼろぼろになった、後
見物客を前に覚悟を決める役者の顔は化粧が落とされ、素のままだった。 猫のように柔らかいはずの肉は固まり掛けの石粉粘土のようになっている。 復讐するかのようにじっくりと見つめれば見つめる程、不思議に思った。まるで、樹海に置かれた死体を演じる役者のような色をしている。 周囲を警戒しつつ、カメラを観客の顔に向けた。 ――愉快なピエロは、焦点の合わない目を細めている。貴重なようでいて、よくある映像だ。 ――寡黙な船頭は、そしらぬ顔して髭を擦っている。これも、フィルム越しに繰り返し眺めた。 ――子連れの女性はステージに向かってカンペを差しだしている。 ふと別の客と目が合った。長い間撮影してきたはずの役者は、着色された瑪瑙のような瞳をしていた。 私の正体はこの女に限りなく近いと思った。 「お前はお客さんにはなれないだろう。あっちいけ、しっし。」 突然団長に追い払われて外に出ると、 庭の隅で男がラムネ菓子を食べていた。集められた銀紙は、くしゃくしゃと丸められた。 彼が銀紙を放り投げる人間なのか、 それとも銀紙を放り投げるふりをしているだけなのか、 あるいは銀紙を放り投げてもドレスを着た銀粘土を放り投げることはしない、そんな人間なのか。 見極めようとしたが、ぱさぱさの髪を靡かせる滑稽な女にはわからなかった。 唯一分かるのは、悪魔の皮を被った子どもには、大人の皮を被った大人がついてくるということだ。 道化師は今日も歩く。 同類を馬鹿にし、メイクも赤い鼻も嫌っているふりをしながらも、無色の白粉で瘡蓋を隠して道化師として歩く。
交差でぼろぼろになった、後 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 757.8
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-11-06
コメント日時 2017-11-11
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
花緒さん コメントありがとうございます。 1日に起こった現実の出来事をぼかす形で詩にしたのでロジックが曖昧なのはたぶんそのせいだと思います。
0~ように、という直喩が続くのですが、見慣れた感じではなく、なぜか新鮮に読める。それは、〈固まり掛けの石粉粘土〉とか〈樹海に置かれた死体を演じる役者のような色〉といった具体的な、独自の感覚でとらえた比喩が続くから、なのでしょう。 〈着色された瑪瑙のような瞳をしていた。〉ここから〈私の正体はこの女に限りなく近いと思った。〉この飛躍に惹かれます。それこそ、私の正体だ、というように、断定しても良いのかもしれませんが、散文性の強い文体なので、~と思った、の方が自然に受け取れるような気もします。 花緒さんの感じた不思議さは、〈復讐するかのようにじっくりと見つめれば見つめる程〉の話者は、舞台上で化粧を落とした役者を見ている観客の視点、であり、〈周囲を警戒しつつ、~〉の話者は、実は舞台上の役者の視点に移動しているのではないか、というギミックが施されているから、ではないのか、という気がしました。 観客こそが〈愉快なピエロ〉〈寡黙な船頭〉〈ステージに向かってカンペを差しだしている〉子連れの女性・・・なのではないか。 〈あるいは銀紙を放り投げてもドレスを着た銀粘土を放り投げることはしない、〉銀紙つながりで銀粘土が引き出されたのか、と思いつつ、ここは脈絡がうまく捉えられませんでした。 石粉粘土で作り上げるビスクドール、粘土、という言葉から詩の内部でつながっているイメージと、粘土が結びつく、のか・・・。 〈団長〉に追い出された〈私〉こそ、〈ぱさぱさの髪を靡かせる滑稽な女〉なのかもしれない。その滑稽な女が〈道化師〉にスライドしているのかもしれない。 〈唯一分かるのは、悪魔の皮を被った子どもには、大人の皮を被った大人がついてくるということだ。〉この断定部分も、語り手にとっては自明のこと、読者にとっては謎として提示されている。面白い試みだと思います。 少しずつずらされていく語り手や話者の視点に翻弄されつつ、楽しんで読むことができました。一貫して道化やビスクドールのイメージが流れ、不思議なまとまりを持った世界を作りだしていると思いました。
0まりもさん 上のコメントにて詳しい解釈をして下さってありがとうございます。ちなみに『ドレスを着た銀粘土』は女性の比喩です。今考えるともう少し分かりやすい表現もあったかなと思います。
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