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閃光
きみが目の下に叩いた星々が、街頭を乱反射してぱたぱたと瞬いている。なるほど、化粧を武装という昨今の皆の気持ちもわかるような気がするよ。きみは、わざとが上手いね。曖昧にするのが、うまい。沈黙の誘う気まずさに視線が上擦る。郊外の街では、案外星がよく見えるものだ。彼女のあたまのうえに輝く、一等星。(ぼくは生憎、教養とは無縁の生活を送ってきたものだから、星座が分からないけれど、多分重要な星座の一部分なのだと思う、多分ね。) 午前二時、彼女と並んで歩いている、馴染みの住宅街は仮死状態だった。しゅわしゅわと、火照る頬を撫でる風は心地良くもあって、微炭酸みたいだな、と、思う。幾度もなぞった帰路が、家々の朝礼みたく並ぶのが、春に溶け込んだぼくを、よそよそしく、例えるなら親戚のおばさんみたいな、此方が妙に気恥ずかしく、緊張するような他人行儀でみている。 現実逃避じみた情景を脳内が都合よく変換していた頃、不意に、静寂が罅割れた。舌足らずの、甘ったるい、ストロベリークリームみたいな声。強かさの滲んで、舐めると閃光の味がしそうだ。一等星を向く、意思に縁取られたみたいな長いまつ毛の、まあるい瞳。太陽に目を焼かれることを厭わない、危うさを持った、輝き。 「ねえ、聞いてる?きみに泣かされるなんて、いままでも、これからも、絶対ないよ。わたしが泣くのは、愛のためだけ。宝石のできるみたいに、凝固された私の涙は、愛の結晶になるの。だから、わたしがきみの前で泣くことは、ないよ。ぜったい。 」 その小さくて華奢な掌で、心臓をぎゅうと握り締められたようだった。 まだ見ぬ相手への嫉妬心や、切なさに似たちっぽけな感情に支配され、マグカップの底にこびり付いたみたく、冷ややかな痛み。生憎ぼくの足りない脳味噌では君の言葉の、いや、君自身の半分も理解出来ていないだろうが、なんだか、それすらも、いやそれ以外きみを構成する、言葉、体、概念そのものが憎たらしくて堪らなく、同時に手を伸ばしたいほどに愛らしいもののように思えてくる。人はこれを征服欲というのだろうか?おこがましいだろうか。 「…………でも、今日か風が冷たくて、寒い。 」 「わたしはドライアイで、もう、それはそれは、強い風に弱かったりしています。だからね、だからです、これは。…………大切にしてくれたことなんて無かったし、これからも無いでしょ、だから、泣けるわけなんかないんです、最初から。」彼女 は、はさりと音のしそうな、長い睫毛を幾許か瞬かせた。 (うん、) 頷くだけで、やはり分からなかった、泣いているのか、泣いていないのか。 どの輝きが本物で、どの輝きが偽物なのかを見抜く審美眼がぼくにはなくて、サンタさんも居ないし、誕生日を祝ってくれる人なんて居ないだろうから、きっとこれからも得ることは無いんだと思う。触れられるもののことを、影というのだって。ぼくは、影ですらなく、言うなれば、きみの、 「…………いつまでも、わたしの、光でいてください、どうか。 」(うん、そうだね。)(今思い返せば、そのときぼくは靴を履いていなかった。)
閃光 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1313.9
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2022-03-19
コメント日時 2022-04-11
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
冒頭の文体を見て「おっ」と思い読ませていただきました。しかし、コメントが難しい。一回少し書いて消しました。言葉の跳躍、それも跳ね方が好きな部分がけっこうあるんです。なんですが、全体としての文体のバランスは乱れているとは少し思う(すいません)。 後半は言葉の跳ねが減って小説的に言葉の交わし合いを重視する文体を感じさせるのですが、それも好きとうーんが混ざり合って、とても読みやすいんだけどいわゆる抒情ではなくエモに流されすぎている気はしつつ、でも推したいなあと思う気持ちも残る。 たぶん作者さんも私もまだそこまで詩が上手くないんだと思うんですけど(私が詩が上手かったらもうちょっと踏み込んで言ってる気がする)、なんか凸凹はたくさんあるんだけど、共感したり読ませるものがある気がする。なんだろう。ラストの一行とか好きです。もし作者さんの文体やレトリックがより磨かれ、情緒の抑制がさらに巧みな詩を書かれることがあったらすごくテンションが上がると思う。私は一読み手にしか過ぎないわけですが、人の心をなにかしらの方向に動かす力が詩書きの力だとしたら、私は(あくまで個人としてかも知れないけど)今回かなりやられました。
1根底に形にしたいことが高い温度をもってあるんだろうと思えました。 > 触れられるもののことを、影というのだって。 > (今思い返せば、そのときぼくは靴を履いていなかった。) この箇所がとても好きです。言葉の意味を越えて感じるものがありました。 > きみが目の下に叩いた星々 ここも好きです。全体的に、美化を恐れない語り口で語られ、記憶が過剰に綺麗に再構成・再演されているような印象を本作から受けたのですが、この箇所だけ生々しさが隠せずに滲んでいる気がして。 文体における飛躍や切断は読んでいて気持ちがよかったです。 内容についてはなんとも言えません。やっぱり、もう少し抑制が欲しいでしょうか。それでむしろ強まるものもあるはずだと思います。もちろん、心が向かうところを最優先にするべきなのは言うまでもないですが。 作者にとってはとにかく熱量を注ぎ込めるかどうかが大事だったのだろうし、それは充分成功だと思います。
1コメントありがとうございます。書きたいものを書きなぐっているだけの詩でしたので、しっかりとしたコメントを頂けて嬉しかったです。 叙情を導くことのできる詩を目指して精進していきます、少しでも好きだなあと思っていただければ嬉しいです。
0冗舌体の詩と言うわけではなさそうだと思いました。言い訳めいた部分は、釈明と言うよりは、そここそ、詩語を駆使できるという意気込みを感じました。星座のくだりや、おばさんのくだりですね。華奢な「きみ」はこれまでもこれからも理解不能なものとして存在し続けるのかもしれませんが、それが魅力的な事の源泉なのかもしれません。
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