別枠表示
おぼえている
携帯のアラームが鳴った、のは おぼえている 鳴った、確かに、ロッキー2のテーマ曲 絶対起床時間より五分早く設定してあるから あと五分は大丈夫、あと、五分は と、思ったのもおぼえている となりに眠っていた息子が珍しく早く起きて 「お父さん、ロスジャギ倒せる?」 と、聞いてきたのも 「ああ、倒せるよ。楽勝だよ」 と、答えたのもおぼえている 「早く起きて、ゲームやろうよ」 と、息子がのしかかって誘ってきたのも、おぼえている 唐揚げのうまそうな匂い 炊飯器の蓋を開けた、出来立ての飯の臭いがして 今朝はおにぎりが食べたいな、と思ったことも おぼえている 寝返りを打つと、毛布のぬくもりに吸い込まれて ああ、あとちょっとだけね、と目を閉じたことも 記憶が何度か旋回して、はっきりした夢を見たなと 薄ぼんやりと感じて あっ、と自分の声で飛び起きると、寝グセ頭の息子が パンツ一丁になって、タンスから服を取り出していた デジタル時計を見ると、総毛立った ああ、飯を食べる時間ないじゃないか! いや、早く着替えないと!初の遅刻だぞ! 奥さん、なんで起こしてくれなかった? ああ。そうだ、今日は遠足の日だったな 息子のリクエスト、冷蔵庫に貼ってあった 唐揚げ、エビフライ、コロッケ 俺まで期待しちゃったから おぼえている いつもの冷凍食品じゃないから 弁当つくりに夢中なのだ 俺の弁当のおかずは冷凍食品を 詰め込んだだけの…… いや、不満じゃない、安あがりで便利でいいんだ 遠足の日は息子だけでなく、俺もワクワクした 唐揚げ、エビフライ、コロッケ、みんな手作りで ギュッと詰まっていて、旨いんだよ ああ、腹減った そんなこと今はどうでもいい 早くしないと、服、その前に顔を洗って、髭そって 言い訳考えようか、正直に寝坊しましたと言おうか 初犯なら許される? 甘い、社会は厳しいぞ パジャマを脱ぎながら、息子に 「今日は何曜日だ!?」と聞くと 「スイ!」 「スイって、水曜日か?」 「そう。スイヨービ」 今週の水曜日は休みだから、忘れないでくれよ、と 妻に念を押したことはおぼえていた 昨日までは…… 台所に立つ妻の背中に、おはよう、と言うと 「唐揚げ、作り過ぎちゃったから、お昼に一緒食べちゃおう。 ひと駅先にできた激安スーパー、あとで付き合って」 「ああ、おぼえているよ」 「おぼえているって、何を?ちょっと息荒いけど、 大丈夫?」 「大丈夫、大丈夫」
おぼえている ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 848.8
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-11-01
コメント日時 2017-11-03
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
あれ、結局、遠足の日、は、水曜日、ではなかったのかな?と思いながら・・・お父さん、が息子の弁当を作る、設定だったのか?母子家庭なのかな?いや、違うな、と読み直して・・・ ああ、水曜は休みだから、起こさないでね、と妻に頼んだことすら忘れて眠りこけていた「お父さん」の唄、なのか、と・・・。 いや、早く着替えないと!初の遅刻だぞ! 奥さん、なんで起こしてくれなかった? ああ。そうだ、今日は遠足の日だったな 自分の妻に、「奥さん」と呼びかける夫、なんですね(笑) 自分の弁当は冷凍食品で「済まされて」しまうのに、文句も言わず。息子の遠足弁当に夢中になっている奥さんを、温かく見ている旦那さん。朝からロッキーのテーマで自分を鼓舞して、会社に出かける、旦那さん。 息子に夢中になるくらいに、いつも手をかけてあげられなくてごめんね、という、妻から夫への思い、も、内包されているや否や・・・。 ホームドラマ的な面は否めませんが、書き方で次第に景や関係性が見えてくるように、丁寧に描かれた作品ですね。 いかに「泥のように」夫が眠りこけているか。その夫の疲れ具合を、書き手は察知して描いている(家計を助けるための共働きで、日々疲れ切っている自身の疲れ、を、妻の疲れ、としてではなく、夫の疲れ、に反転して書いている、可能性もありますが)そこが面白いと思いました。
0花緒さん 激流の中、掬って頂きまして、ありがとうございます!ある朝の風景と記憶の連続を合わせて書いた作品でした。家庭の日常ですと牧歌的になってしまう。深み欠けてしまうところもあったかと思います。まだまだ、ですね。 まりもさん いつもありがとうございます! 妻のことを「奥さん」と呼ぶところは、古い日本映画の主人公から得たもので。面白いなぁと思い、取り入れました。ご指摘のとおり、ホームドラマ風になってしまいましたが、細部まで読み込んでくださり、評してくださいましてありがとうございます!
0