東京スカイツリーが赤く燃える夜、
僕は朱色の月に映る白鯨を飲み込んだ。
白鯨は胃袋でのたうち回り、やがて消沈していく。
テレビで流れる醜聞、窓の向こうに見える人の陰。
心を覆い隠した群衆、濁った雲のある空。
人は変われずに、終わりの時を迎えるとしても、
僕は夢を夢見たあの頃を、想い出す。
天国も安住の地もフィクションで、
どうやら僕らの場所にはないという。
地獄で裁かれることもないけれど、
優しく死後を労わってくれる菩薩もいないらしい。
それなら一つだけ小さな嘘をついてみよう。
路上で遊ぶ子供たちを見ながら、昨日僕はそう考えていた。
カフェオレが湯気を立てて、香気を漂わせる。
頬張ったパンは柔らかい甘みを充満させていく。
「いらないものは何一つない」
偉人のセリフがあれほど似合うひと時はない。
「優しさは選択だ」というスピーチ、今は振り返らなくなった愛の唄、不死なるものを説く哲学者の言葉、奇跡について描かれた映画、うち捨てられたモンテクリスト伯。
そのどれもが今やあるゆる意味で、正しくないと人は言う。それでも、
僕は未来への遺言をしたためていく。今日は昨日の続き。そして明日も。
執着とか悪だくみとか、あと嫉妬。
決してみなを幸せにはしない心をまとった白鯨。
都で炎上したスカイツリーを横目にしながら、
彼はいつかまた僕を支配しようと、目論んでいる。
その日が来る前に僕はひと仕事を終えるつもり。
終末時計がまた針を進め、遺伝子が途絶えかかった頃、
朱に染まった月で僕に剥製にされるのは、
蒼い目をした白鯨。
作品データ
コメント数 : 8
P V 数 : 2120.9
お気に入り数: 0
投票数 : 4
ポイント数 : 11
作成日時 2022-02-12
コメント日時 2022-02-24
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/12/27現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 3 | 3 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 3 | 3 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 3 | 3 |
総合ポイント | 11 | 11 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 1.5 | 1.5 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0.5 | 0.5 |
エンタメ | 0.5 | 0.5 |
技巧 | 1.5 | 1.5 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1.5 | 1.5 |
総合 | 5.5 | 5.5 |
閲覧指数:2120.9
2024/12/27 03時30分02秒現在
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ねねむさん、コメントありがとうございます。白鯨は作中にもあるように、「よろしくないもの」の象徴であり、具現化なのですが、もっとイメージ豊かに描くことが出来たかもしれません。それよりも意味合いを持つ描写に一部流れてしまったのが惜しい!と読み返してみて思いました。
1さくらさん、コメントありがとうございます。さくらさんが珍しく強弁を振るっているのでよく検証したところ、確かにその2行は読者に読んで「思わせるべきこと」であり、作中では書かない方が良かったかもしれませんね。でもさくらさん、ご自分なりの理由を書いた方がレッサーとしての価値も、レス自体の価値も上がりますよ。惜しい!と思いました。
1初めまして、コメント失礼します。 久しぶりに強く、そして美しい作品に出会った気がしました。 白鯨を「飲み込んだ」「剥製にする」という表現、とても好きです。 拙い語彙ですみません。
0染音さん、コメントありがとうございます!強く、美しい。恐らくこの詩の話者、主人公の「人を幸せにしないもの」から遠ざかる意志が、強く美しく映ったのだと思います。またもう一歩踏み込めば、ビジョン。映像的な美しさをさらに追求出来たかとも思いますが、この時点ではこれがベストな形かと。僕にとっても前々作の「高熱」に続き、思い入れの深い作品になりました。
1染音さん、コメントありがとうございます!強く、美しい。恐らくこの詩の話者、主人公の「人を幸せにしないもの」から遠ざかる意志が、強く美しく映ったのだと思います。またもう一歩踏み込めば、ビジョン。映像的な美しさをさらに追求出来たかとも思いますが、この時点ではこれがベストな形かと。僕にとっても前々作の「高熱」に続き、思い入れの深い作品になりました。
1ABさん、コメントありがとうございます。僕は循環を取りましたが、既視感で損をしているのかどうかは話が割れるところだと思います。この詩においては蒼い目をした白鯨以外思いつかなかった。またそれ以上に凝ったタイトルをつける気にもならなかった。その点でこの詩に、ビハインドが生まれたのならもう少し一考の余地があったのかもしれません。しかし、途中は浸っていたかったとのこと。ありがとうございます。この詩はそのような詩でもあるので。
1>朱に染まった月で僕に剥製にされるのは、 >蒼い目をした白鯨 詩の最後のフレーズはキマっていると思います。 >東京スカイツリーが赤く燃える夜、 冒頭も良い。映像が浮かびあがります。 ただ、ほとんどの文章が散文的に感じられました。レイアウトの工夫、ひらがなの使用などを、ためしてみてもいいかもしれません。
0深尾さん、コメントありがとうございます。この詩は散文詩的なものを指向していたので散文的に感じられたのは、ある意味当然かもしれません。しかし深尾さんのご指摘は、この詩がどこか冗長な印象がする、との仄めかしも入っていると僕は読んだので、ここは工夫が必要ですね。ありがとうございました。
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