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市ヶ谷の聖者
物心ついたころから市ヶ谷駅の地下道にはあのホームレスがいて こっちは学生時代からいろんな挫折もあってなんとか働いているのにあいつは何年寝てるんだという苛立ちや 彼を排除しないでいられるうちはまだ東京もなんとかなりそうだという安心感など 日々異なった感情を抱いて通り過ぎるものだったが 今日は彼も彼の荷物もなく ついにその日が来たのかと とりあえず出勤中の朝に深くは考えないようにしながら地上への階段を上ったところに ロバがいた 長い耳と大きな瞳で側溝の雑草を食べているロバの後ろには台車のようなものがついていて そこに座っている人は その人について考えることが 私の人生においてもっとも重要なことだと本能的に知る その人の顔を見る勇気は出せず 通り過ぎたロバと台車の後ろをついていく 江戸城へと向かう市ヶ谷の道が曲がりくねっているのは防衛戦略上のものであるらしいが ビジネス街の朝の雑踏をロバはゆっくりとすすんでいく こんなところにロバがいること自体おかしいのでそんなものには付き合わない それが日本の会社員たちであってロバの前には自然に道が出来ていく 一方で私の横や後ろには それ以上近づこうとはしないがロバの速度に合わせて進む人たちが連なってくる 古ぼけて元の色もわからないブルゾンで台車の上に座る人が もう何年も先が見えない日本の現状を変えてくれるのだと直感して もはや定時出勤など気にせず彼を求める日本人も少なくはなく 連帯感から奇妙に高揚した私は彼に話しかけようと一歩を踏み出し しかし本当に救いを求めるべきなのだろうか 我々は我々自身の力でもう少しなんとか出来るのではないか なんとか出来ないにしても静かに優雅に滅んでいけば良いのであって 我々の悲惨は我々のものであり西洋由来の彼ごときに救われる由来はないのではなかろうか 私が逡巡するうちにロバと彼は日本テレビのビルに吸い込まれて自動ドアが閉まる 続いて入った民衆の数におびえている受付を見て 私たちは彼が消えてしまったことを悟る
市ヶ谷の聖者 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 780.1
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2022-01-29
コメント日時 2022-01-29
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
寓話のような詩です。現実感をだそうと工夫しているように思われました。文章が断ち切られている箇所もあり、散文との差をつけようとの効果をねらっていると考えます。
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