どこからか現れたその子は自らを命と名乗った。ぼろぼろの布地で涙をぬぐい、色素の抜けた髪の毛で僕のほほを撫でた。その目線の先を見ると死にかけの蟻が抱えきれない正義を運んでいた。仲間のいる巣まであと少しのところで息絶えた。達成感のない深愁に満ちた体を大地が受け止めている。広大な大地の一点に横たわる、自分と変わらなかった存在に誰も注目しない。蟻は静かに眠り続ける。大地はこのためにあるの。そう言い彼女は全身の力の抜けた残骸を拾い上げ、 わたしはこのためにあるの、と言って優しく手のひらで包み込んだ。まばたきをして、目をゆっくりと開けて見ると、右の腕が朱く猛々しく優しく燃えていた。それから両手で抱きしめるようにすると火の手は一気に体中に広がり、もうすぐで美しく気高い顔も炎に飲み込まれようとしていた。何かを焼くバチバチという音に耳を澄ませ、彼女の瞳の奥に反射するものに恐ろしくも魅了されて、炎がボウッと全てを焼き覆ったとき、僕は躍動を知った。
作品データ
コメント数 : 3
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作成日時 2021-09-24
コメント日時 2021-09-26
#現代詩
#縦書き
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2024/12/04 02時14分39秒現在
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夏には、どこにでも蝉の死骸が落ちていて、誰も気に留めることは無くいつの間にか消えていきます。鴉に食べられたのか、蟻がたかって巣に運んでいったのか、人間に片づけられたのか、分からないですがその様子は余りにもあっけなく、死、とすら言えないかも知れないです。 この詩に描かれたことが、本当は誰にも見えない一瞬のうちに起きていて、文字通り命は燃え尽きるということを、僕は願ってしまいます。 何故、神秘的で、貴いはずの命は儚く消えていくのか? そこで、命に意味づけをして来たものが人類の歴史だと思いますが、虫の命にまで意味づけをする余裕は無く、虫達は子孫に繋ぐ命という種全体から見た意味しか持たないでしょう。虫だけでなく殆ど全ての命が、です。 しかし、命は火だるまとなって、時までも焼き覆うのならば、もうそこには意味など存在しないですね。そんな灼熱の幻想がとても美しかったです。
1自らの熱情と気質で短命なことが多いミュージシャンや夭折の詩人や理想主義の文学者などを思いました。違ったかな?
0最後,彼女が昇天(昇華?)する姿に惹きつけられました。方向性やテーマは違うのでしょうが消えゆく表現の仕方に共感します。 生きとし生けるもの,その人生の先に大地と彼女の炎があると信じればこそ生き抜けるのかもしれないと思いました。死んだら報われるとかいうのでもなく,ただただ生を肯定している。 彼女の瞳の奥にあるもの,それそのものを表現した作品も,ぜひ読ませていただきたいです。
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