夜明け前
冷たい防波堤から一隻の船を眺め
波間に揺れる姿を見守った
近くを飛ぶカモメに
あれはどこへゆくのかねと尋ねれば
「サァ ワタシニハ ワカリカネマス」と返され
「そうか」 と私も返してやった
なんて意味のないやり取りだろうか
カモメの様子からして
どうやら私を勘繰っているようだ
それもそうか
あれはカモメ
どう足掻いても同じにはなれない
カモメの離れ際には
お前さんの邪魔をするつもりは無いと教えてやった
カモメは一鳴きし揚々と飛び去っていった
なんだ 伝わっているじゃないか
私のエゴを差し引けば 同じ生き物であった
別の日
硬い防波堤から一隻の船を眺め
波間に揺れる姿を見守った
「オーイ」と足元から声がし
私の足はついに喋りだしたかと思ったが
よく見れば半分程干からびたミミズが横たわっていた
あまりの風貌に思わず大丈夫かねと尋ねると
「サァ ワタシニハ ワカリカネマス」と
何処か聞き覚えのある言葉を言うもんだから
私はムッとして鼻息を深くついた
「ワタシハ シンセンナツチガ スキデス」
「ワタシニ シンセンナツチヲ クダサイ」
「自分の状況が分からないのか」と言うと
同時に胸の底で嵐の始まりのような音が響いた
ミミズは何かを察したのか声をもらす
「ワタシハ ワタシトイウ ソンザイガ イッタイ ドンナモノナノカ ワカラナイノデス」
「申し訳ないが君の言いたいことが汲めない」
「ソノコトバ ソックリソノママ オカエシシマス」
「イチド ソノカオヲ タシカメルトイイデスヨ」
「ナカナカ ヒドイカオヲ シテマヨ」
情けないことに何も言い返す言葉が湧かず
その言葉を最後にその場を離れ帰路を辿った
久しぶりに覗いた表情はなかなかに酷い顔をしていた
鏡に写る自顔を見つめながら私は薄笑いを浮かべた
すでに形を変えた君にどう伝えるべきか
私も私という存在が一体どんなものなのか分からない
つまり 私のエゴを差し引けば 同じ生き物であった
作品データ
コメント数 : 3
P V 数 : 910.5
お気に入り数: 2
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2021-09-16
コメント日時 2021-09-17
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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2024/11/21 20時45分03秒現在
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エゴヲタシアワセルト チガウイキモノデスカ
1エゴとか自意識は過剰だと疲れるものです。心の中の思いと現実をつじつまを合わせられるのが理想ですが、心だけがどんどん膨らみ、詩が膨らんだりします。言葉と行動の一致も難しいですし、心と現実が仲良しであるときは健康な文化的な詩が書けるのかもしれません。それを越えたエゴや自意識は病的になりやすく、もしくは独りよがりになってしまうのかなぁ、などと思いました。鴎と問いかけ合うような生き物同士の交差が描かれているのが、自己の存在への不信があってもいいのだと思いました。異質でも響き合っていることの価値だと思います。
1この作品すごく良いです。 語り手もカモメもミミズも同じ立ち位置から物申しているところが。 カタカナの会話もカタコトなところが宇宙人との交信みたいで異種同士の会話がして引き立ってます。 面白い作品でした。
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