透明な渦が頭上で回っている。軽い酩酊。彼女の記憶は、古びた鹿鳴館で蕩けてしまった。白い服の人が新しいビルを建て、僕らの知っていた建物が取り壊されていく。教科書の1ページ、その片隅に書かれていたふるさとの情景も、デジタル化されて解体していく。愛した母は死んで憤怒の父は地獄に帰る。娘たちの声も反響はしているがもう現代には届かない。ましてや未来にはとても。清算の時。勝者が色を決め、敗者がそれに従う。適応出来る人、モノ、金だけが生き残る。ゆっくりと目を閉じて流れていくのは後悔。手を取り合って前を見ていたはずが裏切り、握りしめていた掌には刃物が隠されていた。残るのはただひたすら、後悔。虹はかかるが誰も見向きはしない。雨が上がっても皆の表情は変わらないまま。こうして僕らが大切にしていた桜も、
散っていく。
さよなら・桜
さよなら・桜模様
さよなら・桜景色
さよなら・桜のある風景
□□□の時代
盲目の青年が杖を掲げている。SOSのサインだ。なのに誰も目にとめることはない。みな必死だからだ。生き抜くことに。青年は「THE MOTHER LAND IS DEAD」と呟き、歓喜とも絶叫ともつかない声をあげる。
「アッ!!!」
さよなら・桜
さよなら・桜
さよなら・桜
さよなら・桜のある母国
◇◇◇の故郷
透明な渦がフラッシュバックして目に飛び込んでくる。風は速度を上げて東へと去り、追う人ももういない。パブリックビューアーに映るのは右手を失ったアスリート。彼は黄金色のメダルを手にして片膝をつく。でももう誰も関心がない。終わりの時。喜びと涙に濡れながら桜は散って散って散り散りになっていく。
さよなら・桜
さよなら・桜
と、
口にしながら。
作品データ
コメント数 : 8
P V 数 : 1503.3
お気に入り数: 1
投票数 : 2
ポイント数 : 56
作成日時 2021-08-30
コメント日時 2021-09-04
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 15 | 15 |
前衛性 | 7 | 7 |
可読性 | 5 | 5 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 11 | 11 |
音韻 | 6 | 6 |
構成 | 10 | 10 |
総合ポイント | 56 | 56 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 15 | 15 |
前衛性 | 7 | 7 |
可読性 | 5 | 5 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 11 | 11 |
音韻 | 6 | 6 |
構成 | 10 | 10 |
総合 | 56 | 56 |
閲覧指数:1503.3
2024/11/21 19時56分12秒現在
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桜である必然性が感じられました。
0まず、タイトルが良いですね! ゆっくりと目を閉じて流れていくのは後悔。手を取り合って前を見ていたはずが裏切り、握りしめていた掌には刃物が隠されていた。残るのはただひたすら、後悔。 この部分が心に刺さりました。誰もが余裕が無い今という時代のせいなのでしょうか。 なんだか、胸が痛くなります。 なんとか生きていきたいですね。
0後悔という言葉が胸に刺さります。 残暑厳しい折りに桜、そして 後悔 時間が経っても消えないものはそれだと思います。 >SOSのサインだ。なのに誰も目にとめることはない。みな必死だからだ。生き抜くことに。 stereoさんの~ことはない。という表現よく目にするのですが、それに理由がついているパターン、私は初めて見ました。とてもいいです。読者に理由を委ねるのもありですが、stereoさんの心情を表しているようで好感が持てます >さよなら・桜 >さよなら・桜模様 >さよなら・桜景色 >さよなら・桜のある風景 どれもにたような言葉なのにしつこさを感じません。だんだん言葉が長くなっているからなのか、言葉の響きがいいからなのか、とてもいいと思います。 後半はパラリンピックを描いたような感じになっていて、そこで「さよなら・桜」となると、パラリンピックメダリストに送られるソメイティのぬいぐるみことを思い出して少しほっこりしました 最近、後悔していることが夢に出てきて苦しい夜ですが、散っていく桜のようにこの後悔が散っていくことを願っています。さよならしたいです。
田中宏輔さん、コメントありがとうございます。桜である必然性。桜、日本人の心とも呼ばれますから、それが伝わって良かったです。文脈上、田中さんも感じ取ってくれたのでしょう。嬉しいです。
0きょこちさん、コメントありがとうございます。タイトル、いいですよね。このタイトルを思いついた時点で方向性が一気に定まりました。誰もが余裕のない時代。本当にそうです。財力もあって俗にインフルエンサーとも呼ばれる方々の一部もいきりたってしまう昨今。桜はやはり散って散り散りになっていくのでしょう。
0もこさん、コメントありがとうございます。そうですね。僕は〇〇することはない、と書いた後理由を連ねることは余りしないですね。この詩を書いた頃の心情が映されているのかもしれません。最後パラリンピックを彷彿とさせる描写というのはその通りで、障がい者の方が各々頂点を目指す、あるいは信条をアピールすることに、世の中が全般的に無関心になっている風潮を描きました。桜はやはりもうそろそろ散るのでしょう。
0ペシミスティックで厳しい現実認識が描かれていますね。貧しさの中でこそ愛を語るのは企業がやるとブラックですが、個人がやると人情になる気がします。お金持ちより庶民の方が優しいように、小さな言葉しか持たない優しい人がこの市井には潜んでいるんじゃないかなぁ。という楽観。( ´艸`)
0湖湖さん、コメントありがとうございます。楽観。いいんじゃないでしょうか。世の中には想像以上にいい人が多いですからね。僕もその一人です。ただ僕が直近考えていたことを反映させたのがこの詩ですね。桜が散りそうで散りそうなのです。僕も楽観はしたいのですが。
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