ホノルルにある
ハレクラニホテルの
海が見えるその一室には
しらない音楽家の幽霊が住んでいて
いちぬけぴっぴ、
いちぬけぴっぴ、
と歌っている
(僕の頭のまわり 星が光ってた)
これから
どうなっちゃうんだろうね
と話しかけると、
あなたは
おもむろに立ち上がり
数を数えながら、
手を洗い始めた
(あなたがいるなら この世は まだましだな)
東京で5042人
過去最多を記録したその日
わたしは何度洗っても
自分の手が
まだ
汚れているような気がして
洗面所を
離れられずにいた
(じぶん が どこにもいない)
大好きだった
禁断の林檎が
今年はどこを探しても売っておらず
もう味わうことが
できないのかもしれない
そう思うと
何だかひどくお腹がすいた気がして
夜のアラモアナセンターを
ぶらぶらと
散歩をした
(ぼくは ゆっくりと 落ちて行った)
マサラダと
アサイーボウルと
ホイップクリームがたくさんのった
パンケーキを食べて帰ってきたら
音楽家の幽霊は
もういなくなっていて
それでも
このホテルの壁は
きのうまで
部屋に流れていた音の
繊細な振動を
忘れられずにいた
(その部屋には わたしは いない)
ハレクラニホテルで使われている柔軟剤は
とても良い匂いがする
白い砂浜とマカロンを混ぜたような
この香りは
せいけつで
一部の限られた人間だけが
嗅ぐことを許される香りだ
(今 空 高く 広 く)
とうめいな
巨大な洗濯機のなかで
あまたの手が
あなたを洗っている
その渦のなかに
ハレクラニホテルの柔軟剤を
東京の上空から
ゆったりと
一滴
垂らす
(投げる 跳ねる 投げる 跳ねる)
今年のフジロックには
ヘッドライナーに
日本でいちばん好きな
ミュージシャンが出演するから
すごく楽しみだなあ
と言ったら
あなたは
ただの林檎を
がぶり!
とかじって
あっけなく
消えていった
(さよなら さよなら バイバイ アディオス)
作品データ
コメント数 : 9
P V 数 : 1834.5
お気に入り数: 0
投票数 : 2
ポイント数 : 6
作成日時 2021-08-09
コメント日時 2021-08-15
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 2 | 2 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 6 | 6 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 2 | 2 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 6 | 6 |
閲覧指数:1834.5
2024/11/21 20時15分58秒現在
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しらない音楽家の幽霊が住んでいて 部屋に流れていた音の 繊細な振動を 忘れられずにいた ここ、すごく清潔感がありますね。 ほかはあまり潔癖な感じが出ていなくて残念な気持ちにはなりましたが、 潔癖すぎるよりもこれくらいの方が心地よく読める書き物なのかなという ただの感想しか寄せることができず、申し訳ない気持ちにもなっています。
0エルクさん、こんにちは。 作品お読みいただきありがとうございました。 >ほかはあまり潔癖な感じが出ていなくて残念な気持ちにはなりました なるほど、潔癖な感じを期待されてお読みいただいたんですね。 そう言われて気がついたのですが、 わたし自身きれいなものを表現することにあまり興味がないのかもしれません。 たとえば音楽なんかも、ボカロPみたいなものよりも、 ニジェールのロックバンドのほうに関心があります。 ただ、最終的には好みに合わなくても 読み手に気持ちよく読んでもらう筆力がわたしになかったに過ぎないのだと思っています。 話は逸れてしまいますが、エルクさんのコメントを読んで、 「清潔な文章」ってどんな文章なんだろうと考えていました。 個人的には保険の契約文書とか、電化製品の説明書はいかにも「清潔な文章」という感じがします。 エルクさんのおかげで色々なことを考えました。 ありがとうございました。
0沙一さん、こんにちは。 作品お読みいただきありがとうございました。 好意的なコメントどうもありがとうございます。 静謐さとは程遠い文章だと思っていたのでとても驚きました。 一度でいいから静謐な文章、書いてみたいですね。 雪舟の山水図が好きでときどき眺めているのですが、 ああいう線や色などが必要最小限にとどめられている穏やかな作品を見ていると 自分の書く文章の無駄な言葉の多さや、才能の無さにがっかりして しばらく何も書きたくなくなったりします。 コメントいただき、本当にありがとうございました。
0他の方と同じようにわたしも静かな、そんな雰囲気を感じました。 文中で提示される僕、ぼく、わたし、の一人称がゆらめいてかわっていくのが個人的にとてもツボでした。
0新染因循さん、こんにちは。 コメントどうもありがとうございます。 好意的なコメントをいただいておいてアレですが、 静かというよりはいかにも詩っぽい何かに仕上げるために おしとやかになってしまったのかもしれません。 括弧内の主語に関しては完全に無意識というか、 そこまで気が配れなかったなと反省しました。 お読みいただき、コメントもいただいてありがとうございます。
0拝読いたしました。 「ハレクラニホテル」というの、実在する場所かと思いますが、響きがどこか和風で、この詩のイメージを出すのに一役買っている気がしました。 ホノルルのホテルにいる音楽家が「いちぬけぴっぴ」と日本っぽい歌を歌っている面白みもありますね。 現在の日本の状況をかなり具体的に語っている詩だと思いますが、その詩に「あまたの手があなたを洗っている」というタイトルをつける視点にも、軽やかなセンスを感じます。
1丸い箱さん、こんにちは。 ハレクラニホテルの「ハレクラニ」というのは、 ハワイ語で「天国にふさわしい家」という意味のようです。(wikipediaで調べてみました) 丸い箱さんに言われて気がついたのですが、 ハワイ語の響きって英語よりもむしろ日本語に近いかもしれませんね。 ウィキペディアによると、現在ハワイ語は日常会話としてはほとんど使われていないので、 消滅の危機にあるそうです。 想像できませんが、日本語が消えてしまうということもあるのかもしれませんね。 そういえば、戦後GHQが難しい漢字をいくつか廃止していたことも思い出しました。 コメント、どうもありがとうございました。
0cold fishさん、こんにちは。 コメントありがとうございます。 ニジェールの音楽というのはMdouMoctarというバンドなのですが、 ロックの再構築を感じて非常に胸がときめいています。 なんていうか、今のわたしはローカルな、庶民の、西洋の音階を知らない音楽が聴きたいんですよね。 それが詩情かどうかはわからないのですが、 この作品はもうちょっとどうにかなったんじゃないか、 そんな気持ちでいっぱいです。
0作品についてはしばらく迷走しようと思っています。 言っても未だにレディオヘッドを聴き続けていたりして、 そういう呪いみたいなものをいかに解いていくのかが課題ですね。
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