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【百物語】トン
夏休み、みんなで犬を世話する事になりました。 それは白い犬で、その目はいつも遠くを見つめているよう。 名前はトンと名付けました。 トンは大人しくとっても世話をしやすかったです。 いつも小屋の隣でお座りをして私たちを待ってて、みんなのアイドルになりました。 それは散歩を誰がやるのか争う程。 男子が鼻血をどばどば垂れ流しながら嬉しそうに散歩してたり、気弱な子が両手を真っ赤に染めながらニコニコ散歩しているのを見た時はとても驚きました。 またある時にはトンのごはん皿に山盛りの牛肉が手つかずで山盛りになっていて、また別な日には神様に奉納するかのように尾頭付きの鯛がありました。 食べられず蠅がたかっています。 トンにあげるようなご飯じゃない。 いたずら? それにしては大人じゃないと買えなそうな食べ物だ。 思わず私は「一体だれがこんなことしたの?」と声を出します。 トンは、ただ遠くを見つめているばかりでした。 おかしい。 私は茂みから見張る事にしました。 夏でも暗くなると、涼しくなります。冬の様なひんやりが、流れてきました。 誰か来ます。 クラスの男子です。真面目な委員長。でもまるで泥棒の様な仕草。 委員長の物じゃない厚い財布を抱えている。 それをトンの小屋の中に置いた。 入れ替わる様にまた誰か来た。 鼻血を流していたあの男子。 大怪我をしながら何かの箱を抱えている。 それをトンの小屋に入れると、怖いお兄さんがその子を連れて行ってしまった。 世界はさらに暗く。 また誰か来た。 大きな影。お父さんでした。お母さんでした。先生でした。近所の人たち。 みんな、何かを抱えています。 お父さんは家宝と言っていた物、お母さんは嫁入り道具、他の人もみな、宝物を手に。唯、先生は手ぶらでした。 宝物は全てトンの小屋へ。 入りきらないはずなのに。 みんないなくなり、手ぶらの先生は残りました。 するとトンにひれ伏し、トンの足を舐め回しました。 この人は犬に、犬以下の生物として仕えたのだと理解しました。 トンに誰もが全てを喜びながら捧げていきます。 堆く積まれた食べ物は腐り、無限に宝物を小屋に入れて。 私の食べ物すらなくなるほど、トンに何もかも。 ただトンは遠く、虚空を見つめていました。 夏休みが終わると。 借金の形に取られた空き家が並び、教室には私一人、いるのみ。 そしてトンは、消え去ったのです。 全てを奪い去って。 あの眼差しの様に、全部虚空にして。
【百物語】トン ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1488.9
お気に入り数: 1
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2021-08-06
コメント日時 2021-08-09
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
初めまして。 怖いというより深い意味が込められている詩だと思いました。 上手に言えないけど、何か(人・物)に夢中になると、見境なくそれを追いかけてしまうことの恐ろしさでしょうか…。 それが、相手からはどう見えているかなんて、考えもつかなくなる程。 解釈がずれていたらすみません。
0初めまして。 悪意がなければどのような解釈も歓迎ですよ。 実はトンとは孔子の寓話に出てくる怪物の名前で何でも果てしなく食いつくす化け物の名前だったりします。 あとこの話の原型はネイティブアメリカンで行われていたポトラッチと呼ばれる部族間のある種の祭り。 いかに限度を超えて贈与を行えるのかを競うものらしく、ある首長は何年もため込んだ財をすべて出して無一文になったとか。 人間の暴走を書けたかなと思います。
0お返事頂き、ありがとうございました。 トンやポトラッチの話は知らなかったので、とても勉強になりました。 トンは欲望の成れの果てのような存在で、最後は自分自身まで食べてすべてを無にしてしまう。 ポトラッチは自分達の富や権力を見せつけるための贈答をし合う儀式。 人間の暴走も同じで、いずれは最後には何も無くなってしまうんですね。 欲望は誰にだってあるし、それ自体は悪いことじゃないけれど、 自分自身でコントロールしていかないと途端に誰もがトンのような存在に変わる。 そんなことを思いました。
0トンにぜんぜん悪い気持ちがなさそうなのがとても怖いと思いました
0童話的でじっとりした不気味さがあっていいですね。おかしくなっていく人の描写がすごく怖かったです。
0全く悪気はないでしょうね。 人を暴走させてしまう、ある種の悪霊かもしれません。
0こういう童話的な形式がやりやすかったので、こうしてみました。 怖さをどれだけ表現できたかわからなかったのですが、上手くいっていたみたいですね。
1そこを注目されましたか! 確かに、奥行きを持たせることのできた一行かもしれません。
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