仏壇が怖かった頃があります
何が怖かったのかも覚えていませんが、ただ無性に怖くて
仏壇の方を見ないようにしていたのを覚えています
いえ、語弊がありますね
怖かったのは夜の仏壇です
昼の間はむしろ、心強いくらいで
祖父母の家に行く度にお線香をあげていたから
仏壇はむしろ、あの幼い少年の私にとっても懐かしい
おじいちゃんの、皺、優しい仕草
おばあちゃんの、少し厳しい声と、可愛い笑顔が
愛しくて
いまも二人は元気にやっていますから
でも、夜の仏壇は
怖かったのです
木目が怖かったのかもしれません
お線香を入れる陶器がこわかったのかもしれません
おばあちゃんは、ときどきおこるけどやさしいひとで
今はすっかり丸くなりました
天井が怖かったから、一緒に
おじいちゃんはいつも甘やかしてくれて
それはいまもです
ずっとずっとげんきでいてね
おとうさんは、怒るから嫌いでした
今は、感謝できるように
叩かれたこととか、あんまり痛くて覚えてるけど
あの人も寝かしつけてくれたんだったっけ
シャンプーが上手で、髪の毛をシャカシャカされると無性に気持ち良くて
風呂に入るたびに
仏壇の、扉のような部分から、何かが、出てくるような気がしたのかも
でもぼくは、怖がっていた記憶ばかりあるのに
大好きで
何度もシャンプーをせがんだり
ごっこあそびを
いまおもうとはずかしい
仏壇は、畳の上にあるのが
いや、夜は寝ているから
下から見るのが怖かったのかも
何かが出てくるような気がしていて
暗いのが嫌いで
だから電気はいつもオレンジにしてもらっていたのに
お母さんは、やさしかったけど、ときどきひどく落ち込んで、ぼくを困らせてしまう
その上癇癪持ちで
ぼくはおかあさんがだいすきだよ
服を悪く言った時に
ひどく落ち込んでしまったことや
でも、よく子守唄を歌ってくれて
顔を、マッサージされるのが好きでした
リンパをモミモミと、
ぼくはそれでぐっすり
ときどき、やはり仏壇が
仏壇の隙間から、手が出てくるような気なんてしなかった
おかあさんのゆびがぼくのかおをなで
ぼくのたいおんはあがり
大好きでした
いまも好きですが
今は少しぼくの扱いが
畳の隙間は
電気をオレンジにしても真っ暗がたまって
怖かったのかも
畳の隙間から長い顔が出てくるような気は、別に、しない
でも、黒いのが
いや、黒い大きなの
それは、真っ暗だから、何もしないよ
怖がらないで
弟が泣くと、ぼくは無性に腹が立ち
それは弟にではなくて
仏壇の、金の飾りに、顔が写っているのが面白くて
昼は何度も試したのに
少し仏壇が怖くなくなった頃
弟が生まれた
わがままで、嫌いだったけれど
可愛い
ほかのあかちゃんとくらべても
やっぱりかわいい
仏壇の柱が
我が家には、遺影がない
母方の、ばあちゃんちにはある
あせていて、怖いというよりも哀しい
暗くて
めが、こっちを
弟は二段ベッドの上の方にいて
ぼくはなんだか落ちてしまわないか怖かった
ぼくは弟が少し嫌いで
布団に入ると
明日とか、何年も後とか、そのもっと後とか
考えちゃって泣きたくなる
怖いのは、悲しいのかもしれない
弟が、あまりにも脆そうだから
弟は、うんこが臭いよ
でも、柔らかいね
お母さんと弟とお留守番は
家が三角に見えて
ぼくはおねしょをした
ばあちゃんは、タバコが好きなところとか、にがてだったけど
この前背負った時に、ずいぶん暖かかった
仏壇の扉に
手を当てるのは、
でもね、ぼく、さわったんだ
とびらのなかは、
そんなにふかくはないのに
ひるまは、でも、よるになると、
案外、でっかくなったんですよ
だからね、いろんなところにいきましょう
あの、電気紐が
ぷらぷらするのを、目で追って
仏壇の、上は、みえないから
大きな仏壇は、あたたかいぶん
でも、靴下は拾わないと
じいちゃん、むかしはこわかったなんて
ぜんぜんしんじられない
こんなに、よくわらう
おとうとをだいたとき、
たばこは、ふたりともやめたら
髪の毛のない頭が
まだまだげんきにピクピクして
布団が、すこし臭いのは
仏壇と壁の間には
すこし隙間があって、虫が時々
そんなところをじっと見て
法事の時は、何でみんな、楽しそうに
きっと、さみしいからだよ
ぼくは、
ごめんなさい
まっくろが、まっくろが大きく
まっくらは、大丈夫だよ
親戚の子と、遊んで
以来、会っていない
ぶつだんの、とびらがあいて
あいている
まっくらじゃない
なのに、夜の仏壇は、
本を、よんで
あなたのおふざけに、ふざけ返せる度胸も
箸が、転がる畳も
昼は、かわいらしくて
慣れない早寝で、起きてしまうと
ぶつだんが、あんなにやさしいぶつだんが
ぶつだんの、とびらのむこうに
僕は、おしっこをしている間も
ドアの向こうに
まっくろじゃないよ、まっくらだよ
電気をつける音が、がちゃがちゃって
持ってきた本を広げて
保育園ではお昼寝の時の押入れが怖かったから
やっぱりあのとびらのすきまがこわいんだ
なにかがでてきそうなわけじゃないけど
なんかやだ
なにかいるのかな
めだまが、いないよ、でもね
おとうとは、ちいさくて
べっどそつぎょうがこわいよ
ずっとべっどのうえでねてればいいよ
おかあさんがにんしんしていたときもいっしょにねたくないよ
ぶつだんのとびらのあいだからくろいのが
ううん、それはまっくらだよ
ただのまっくらだよ
たぶん、こわいのは
でも
めだまが
やだよ
おじいちゃんもおばあちゃんもばあちゃんもじいちゃんもおかあさんもおとうさんもおとうとも
こわいよ
いっしょにねててよ
ぼくは、ぶつだんがこわいよ
よるといれにいけないって
うそだったけど
ぼくがねるまでおきててよ
いびきとかかいててよ
こわいよ
ぶつだんって、なくなったひとが
かなしいよ
おかあさんおとうさん
おじいちゃんおばあちゃん
じいちゃんばあちゃん
だいすきだよ
おとうとがきらいだったり
ぶつだんのすきまは
ひらいているような
ごめんね、ずるいとかおもって
おとうとがだいすき
いや
めだまが、だって、ずっと、こわくないよ、こわい、うそ、こわいよ
ぶつだんのとびらはぎいぎいいわないのに
いわないとおかしなきがするよ
おかしいね
ぶつだばんのとびらのあっちがわ
なんかいるよ
くろい
あれはまっくらだよ
まっくらのほうに
いかないでよ
めだまが、いやだよ
まっくらは、みえないよ
ほっぺがあったかいから
怖くなくなって
ずっと触っていないと
怖かったのを覚えています
夜の仏壇が怖かったのか、ううん、たぶんしょうらいがこわかったの
だってみんな、ぼくもいつか
だから、仏様がいるんだよ
なむみょうほうれんげきょう
おじいちゃんと一緒に祈る
お線香をあげる
いまはもう、お正月しかやらないけれど
おばあちゃんが果物を切ってくれる
むかしはひとりじめだったけど
いまは弟と食べる
お母さんとぎゅってする
かさかさの指がだいすき
いまはもう、嫌がられるけれど
お父さんにシャンプーしてもらう
おひざのうえでわしゃわしゃって
めにはいらないんだもん
今は、軽口を叩けるくらいに
ばあちゃんは、すこし、なにをいっているのかわからないときもあって
でも、大したことを言わなくても、笑ってくれる
この前、一緒に、出かけて
じいちゃん、なまえまちがえんのやめてよ
ぼくのなまえはね
だじゃれだいすきだよ
おかあさんとなかなおりできてよかった
みんな大好きだったよ
いまもだいすきだよ
けど、おんなじだいすきかは、
弟は今でも、大嫌いだし大好きだけど
よくしゃべるね、ここのところ
だから、あの頃と同じなところは全然なくて
やっぱりぼくのこわかったしょうらいは、しょうらいだった
仏壇の扉の向こうに何がいるのかは結局
あそこには
まっくろが
ううん
まっくらが
まっくらなのは
ぎいぎいいうわけないよね
もくめがきんのかざりが
おひるはやさしい
めだまが
まっくらなのに、でも
いまはもう
仏壇のこともぼんやりと
目の前の仏壇を見ている
祈ることもある
あることを忘れていたり
あの頃は、怖い
むかしのことは
ぜんぶぼんやりしていて
言葉じゃないと
まっくろが
まっくらだよ
うそ、みてるもん
みんなみんな、いまのままならいのに
だってぼくもみんなもいつか
扉が開いていたら
閉める
目玉が、飛び出して
開いていたら閉める
拭くように、目玉が
べろんと
拭いて、手を合わせて
大好きだよ
目玉が、落ちて
これからも、ずっとずっとげんきでいてね
仏壇が、
怖かった頃があります
作品データ
コメント数 : 4
P V 数 : 899.9
お気に入り数: 0
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ポイント数 : 4
作成日時 2021-07-17
コメント日時 2021-07-31
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 2 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 4 | 2 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 4 | 4 |
閲覧指数:899.9
2024/11/21 19時42分58秒現在
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一箇所ぶつだん、がぶちだばんになっているところがありますが誤字です
0仏壇が怖いのは止まってしまった時間に対する哀惜の念からであろうかと思いました。怒る父、叱る父は慈愛の象徴なのかもしれません。。
0そうですね。仏壇の持つ死へのつながりと温かみみたいなものがずっと気になっていて、昼の仏壇はあたたかみ(ご先祖さまが見守ってくれてる感?)が優位にあり、逆に夜の仏壇は死や最後はあそこにいくというイメージが優位にあるのかな、と思っています。 慈愛については…そうですね。厳しく怒るようなタイプの父親は怖いものですが、それでも優しさも下手くそなりにちゃんと持ってるし、わかりやすく優しかった時期というのが人生の中で必ずあるのかな、みたいには思います。
0エイクピアさんに向けてです。
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