昨夕から振り続けた雨は、やがて訪れる梅雨の斥候なのかもしれない。
渓谷に響く川の流れに似た、竹藪に轟く笹のじゃれ合いに似た雨音は、この街を圧迫する。
雨脚の間隙を縫って届いたのは、アスファルトに張った雨水が車に轢かれベチャベチャと泣く声、未だになぜ鳴るのかその原理を知らないゴオォォという雲たちが呻く声。
街を雨の軍団が行進するばかり。
鮮やかに色づき始めた初夏の山々は、靄の奥へと隠れてしまった。
やがて訪れる梅雨を前に。
行軍止んだ街にスズメが鳴く。
人の歩く気配が、エンジンの音が、隣人のテレビがわかる。
窓の向こう。空は河原の砂利を思わせる曇りが塗られて。
窓の向こう。山稜を這って流れる霧はまるで生きているように見えて。
冬を忘れた体には少し寒く感じる微風が吹く。
昨夕から湧き続けた憂鬱は去り、残留したのは僅かな孤立感と気怠さだ。
薄ら明るく斑な曇り空は、夜が更けてもきっと剥がれ落ちずに、今度は星を隠すに決まっている。
「空も心も長引けばすぐには晴れない」
いつか見かけた言葉を思い出し、ふんわりする冷たい微風に嫌気が差し、私は曇りガラスの窓を閉めた。
作品データ
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作成日時 2021-05-07
コメント日時 2021-05-07
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2024/11/21 21時13分08秒現在
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