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供述
ずいぶん前からこの街ではホンモノ探しが始まっている 本物だけが発言権を持ち 本物だけがぐっすり眠れる 知らない街へ出かけるとその事がよく分かる 激安モーニングのにおいが染みついたホテルの喫茶店からは 権力者の探しているものがよく分かる ホンモノかどうかは人類にとって重要だ みんながホンモノを探している そうすれば自分がいかに偽りか感じられるからだと思う だから家から外へ出るとき誰もが鏡から視線をそらす 私も毎朝家を出るが職場には私の顔はない たまに恋人と口論になると「まぁまぁ感情的にナラナイデ」と言われる 私の中にはホンモノはない 食べる物にはさほど困っていないが いつも肝心なところで誰にも注目されない それはおそらく私がホンモノでないからで 本心でこの人生を生きていないからだ 誰が決めたか知らないがこの街はこうだ 人、犬、車、米、なんだってあべこべに成型させられ おのおのが各々のやり方で虚偽を裁く 私がいくら熟睡できたとしてもこの夢はフェイクなのだ 機械のような恋人に「ゴメンネ」と答えてから私は家へ帰った 赤ワインはボトル490円だった もうこんな街にはいられないので今日は眠りたかった ついでに死んでやろうと思ってカッターを握った せっかくだからとスマホを開いた 「アラサー 自傷行為 痛い」とか検索している時点で 私はホンモノ探しに投獄されている
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作品データ
P V 数 : 749.8
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-09-19
コメント日時 2017-09-22
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
カタカナのホンモノ、は、まだ得られていない理想、のようなもので、漢字の「本物」は、ホンモノ、を手にした、と「確信」した後、の実感なのかな、と思いました。 本物、もしくはホンモノ、が連呼されていて・・・それだけ、切実さが伝わってきますが、たとえば繰り返しの面白さや心地よさといった音感を目指した連呼ではなく、意味を提示する、提示し直す、提出し直す・・・ための連呼、ですよね・・・まだ得られていない「ホンモノ」は、なんだろう、どんなものだろう。 それを手にした、と思ったとたん、「俺は本物だ」と発言権を得てしまう。その姿こそ、偽りなのではないか。思い違い、勘違い、なのではないか。その、贋物のホンモノを入手した、と喜んでいる者たちにくらべて、真摯にホンモノを問い続け、そのことに疲れて倦んで、カッターを手にしてしまう語り手の真情に共感します。 共感するけれども・・・探し続けるからこそ、同じところに留まらないで、言い換えていく、読み替えていく、ずらしていく。そうすることで、「投獄」されている、と思っていたけれど、実は扉に鍵はかかっていなかった、なんてことに、気づいたりするのではないか、と思いました。言い換えていくのって、すごく新鮮ですよ。
0まりもさん、初めまして。ありがとうございます。 これを書いた数日前、私は必死でホンモノを探しておりまして、 数日置いて頭を冷やしてから読み直して、何度か書き直してみたのですが、 この連呼には、まりもさんのおっしゃるように、何度も何度も提示し直す・・・という切実な思いがあります。 たしかに、扉に鍵はかかっていないかもしれませんね!
0花緒さん、初めまして。 一度「ホンモノとは何か」を叙述しようとしてみたのですが、野暮な皮肉のようになってしまって、自分で読んでいて面白くなかったのです。 パラドックスが好きなので、そう言ってくださると嬉しいです。 読んでくださってありがとうございました。
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