┣文散詩┳ふみちるうた┫

もうやめようこんなことは　と水は狂いだすように鏡の役割を終えた。正しい洗濯はこれから始められる。薪割りはいつからか、タービンにとって代わられた。銅製のメトロノームは朽ちて、正しい律動を刻む事ができない。零れゆく砂時計の砂が固まってしまったら、たまったもんじゃないし、刃こぼれの酷いダガーでは、羽の曲がった文鳥の臓物を切り分ける事もできない。＊　低いうなり声が廃城の中を満たしている。埃を纏った空気はこぼれた陽の光にさらされ、長く伸びる影と同じ形式で映し出される。保存された飾り文字は、掠れて読むことができない。ここには誰もいない。誰もいないという事は、寂しさという温もりを持たない。寂しさという叙情を生み出すのは、血を流した青い瞳を持つ獣ばかりだ。　＊　血文字で描かれた遺書を読みふけっている。死者が未来を予見し記録した全ての出来事が刻まれているのか。謳われる青春は髪飾りのように簡単に砕けてしまうのでしょうか。問いかける蟒蛇は湿った鱗を暖炉の火に翳して、渇いた獣の肉をついばんでいる。冷水の滴り落ちる曇りガラスの鮮度。溢れる枯れ木から崩れ落ちる一枚の落ち葉。穴だらけの好奇心に駆られて切り落としてしまった無数に生えているような飛蝗の足。＊　何度も母斑をほじくったわ。思い出を思い出すために必要な作業だと聞いている。聞いたところで試した事なんてないけれど。泣きながら蓋をした状況を引きはがす事ができれば、暴力を思い出す事ができるでしょうか。引き裂かれたカーテンの裏側に散らばる、土鼠の死体をおいしそうに食べるのね。占い師の言っている事はいつも曖昧なのに、それでも当たっている。過去の一点ばかりに重点を置いた、全てを超越して見通した、指の曲がった魔女は赤髪。　＊　崩れゆく建物の中で、椅子に座ったまま時が過ぎるのを待っていた。馴染みの女中が常に隣についていて、両手を骨盤の上に重ね合わせていた。切れ長のまつ毛の付いた瞼を閉ざしている。震えている手に気づかなければならなかった。その事を忘れてしまっていた。遠くの食堂の棚がなぎ倒されると同時に、皿が割れた。割れた事実は音を使い、幾つもの怒号が飛び交うように私の名前が使われた。そして、使う者がいたりいなかったりした。それ以来ずっとテニスがしてみたかった。いつの間にか生涯の全ての時間を使い切ってしまった。＊　長い長い死が描かれている。それを興味なく、何度も火にくべて季節が過ぎ去るのを待っていた。寒い冬の日は飽き飽きだった。箱の中に閉じ込められたという事実は、つまらない現実から目を逸らす効力を持たない。短い生を描くために必要なことはたった一行で済んでしまった。腹を満たすために自分の指の皮を剥いで、痒くなった歯茎と奥歯のぐらつきを耐えながら、また時が経つのを待っていた。また待っている間に進んでしまう物事の全ては、語るべき出来事を持ちはしなかった。解釈は自らの行いを恥じて首吊りしてしまった。井戸の中に毒を混ぜたのは俺であって、俺の役目は未来を予見し、予見した物事の順序を硬く守りながら生涯を実演する事だった。だから、木は枯れるし、思い出も枯れる。汚れた靴は洗わないとならないが、底が抜けてしまえば土に埋めるしかない。それか抜けた穴を糸で繋ぎ、土を入れ代えて花の種を埋めるか、女王蟻の棺桶としてひと時の楽園に包まれている巣穴を観察する事であろうか。＊　秘密裡に人を殺す事に失敗して、訴訟される事になった。独房の中で、人間的な生活を義務として課されてしまった。看守から買い取ったしわがれた煙草から臭う、腐りかけの玉ねぎのような臭いはたまったもんじゃないが、吸う事をやめる事はできない。自分の鼻を壁に打ち付け、削ぎ落して産まれた、ぼたぼたとあふれ出る血肉で散文を洗った。現れた散文は読めたもんじゃなくて、読めるような散文にするためには音楽が必要であったが、音感などあるはずもなく、そしてナイフの使い方も分からないのであれば、己を切り分ける事もできないのか。人に美しいと言われ続けた瞳の色を正確に描いた。描かれた瞳の形は鏡で見たものと様子が違うではないか。母斑だらけの自分の腹の模様を壁の上に書いた、塗料のすべてを構成するのは、俺の腹を満たした物事のすべて、描く事のすべては俺の右腕の中に。＊　かすれた映像が流れる　煤けたコンクリートの壁をなぞるようにだ　映写機の中を幾度も回転する、コマ送りされる動画は、人間が野原で跳ねる様子を捉えていた　カメラが移る方角は、観客の求めている物を映す事はなかった　くり抜かれた表情は、たやすい感情を伝える事に終始するばかりで、画面の際に残された空の器を映すことはなかった　　文字通り器がないのだ、この絵には　この文章には　この音楽には、沈み切った笑いが足りない　澄み切った埃塗れの豊かさもない　だから切り取ってしまえ（早く）　満足が低いどもりごえで、急いでかけなおして来る

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作品データ

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作成日時 2021-04-24
コメント日時 2021-04-24

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