今夜の街はなにやらしずかです。
車の音、電車の音、人の声も何もいつも通りなはずが、しずかです。どうしてでしょうか。よく目を凝らすと、誰もなんだか悲しそうな、虚しそうな表情をしています――。
長年連れ添った友人に手酷い仕打ち、裏切りと呼べるかもしれないそれを受けた日、ジョニーは午後の日の差す部屋で、近所の子供らの遊び声を聴きながら酒を飲み始めた。意味もなく、机に投げっぱなしにしていたチラシを丹念に読み込み、原体験のようにいつまでも耳に残るメロディたちを口ずさみ、ジョニーは酒を飲み続けた。
子供らの声が去った夕方頃、ひどい酩酊状態にまでなったジョニーは恋人を呼び出す。
彼の無様な様子に心配と落胆の表情をする彼女。
酒臭い荒息とリミッターの切れた腕力を以って引き裂く勢いで恋人の服を脱がせにかかった。困惑、恐怖。恋人は起きた事態を理解すると力一杯ジョニーを突き飛ばした。バランスを失った体は大きな音を立て激しく床に打ち付けられた。何かとてつもない罵詈雑言を浴びせられ、しまいに先程まで飲んでいた酒瓶を投げつけられ、恋人の消えた部屋でジョニーは胎児のように蹲り震える――。
ジョニーは呆然と天井を仰ぐ。
耳鳴りがうるさい。
痛みは麻痺している。痛みに代わって全身に猛烈な違和感を感じる。ジョニーは長い時間虚ろだった。
吐き気をもよおし、おずおずとトイレに這った後、ジョニーは床に転がる瓶を拾い上げて外へ出た。
風のない夜。ぐいっと煽った瓶だが、中身はとうの昔に飲み干していたようだ。
虚しさばかりだ。
ジョニーはそう思う。昼にも増して夜は虚脱感が全身の筋肉奥底にまで滲みこむ。まるで水の溜まるシンクに血が垂れたように。友人との絆が不確かになり、恋人を傷つけた。もう"歩く"以外の全ての生命活動が億劫になる。手にする瓶もすっからかん。
夜の闇に飲まれてしまいたいのに、辺りは街灯や店明かり、ヘッドライトたちがひしめいて、すれ違う全ての人間が頭が悪い連中に見えて腹立たしい。
こいつらも虚無の底へ堕ちてくればいい。
悲しいだの淋しいだの、そんな自己陶酔に浸る情緒も感じられないほどの虚しさに堕ちればいい。
死よりも恐ろしい死を味わえばいい。
生きながらにして死ねばいい。夜の愁いを引き金にして。
そうとも。俺の今日を、俺の今夜を呑ませて。
この空き瓶に俺の今夜を注ぎ込んで。
作品データ
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作成日時 2021-03-09
コメント日時 2021-03-29
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2024/12/04 02時21分11秒現在
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みやびさんは詩よりもやはりこちらの方が私は好きだなと感じました。 みやびさんが走る人を書けば、息づかいや土を踏む音とかちゃんと想像できますもん それぐらいに丁寧に描けているので凄いなと思います。 どうして皆がみやびさんをもっと見ないのかが不思議ですね。
0こんなに嬉しいコメント貰えたのは初めてかもしれません。 嬉しすぎてなんかキュンキュンしちゃいました。ほんとにありがとうございます(笑)
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