毎朝早くに散歩する。まだほとんどシャッターが閉まった静かな商店街を歩く。毎日同じ場所を歩くと、たまに街の変化に出会う。
緊急事態宣言の延長が決まったか決まる前だったか。そんなある日、商店街の入り口で厚化粧の女性にカタコトの日本語で声をかけられた。
オニイサンタイワンエステヤッテルヨゥ
オニイサンタイワンエステドウ?
ぼくはいらないいらないと言って早歩きで振り切った。
オニイサンオシゴト?
ガンバッテネ
と後ろから聞こえた。
時短要請で朝から営業せざるを得ないのだろうか。それから毎朝、商店街の入り口に彼女は立っていた。男性が通りかかるたびに声をかけていた。みんなぼくと一緒で早歩きでやり過ごす。すると彼女は決まってい言うのだった。
オニイサンオシゴト?
ガンバッテネ
緊急事態宣言が解除された日。朝、女性の姿はなかった。彼女がいない商店街は、相変わらずシャッターが閉まっていて静かだった。
ぼくはいつもと同じルートを歩き、
帰り道にはもう
ガンバッテネって声を思い出せなかった。
作品データ
コメント数 : 7
P V 数 : 1446.7
お気に入り数: 3
投票数 : 0
ポイント数 : 4
作成日時 2021-03-01
コメント日時 2021-03-07
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 2 | 2 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 4 | 4 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 2 | 2 |
閲覧指数:1446.7
2024/11/21 21時12分25秒現在
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時間の移り変わりの物悲しさが描かれています。でも私は「ガンバッテネ」と言われてみたいです。
1タイワン人の女性の声掛けがおもしろかったです。
1読んでいただきありがとうございます! ガンバッテネって言われるとちょっ切なかったです。
0読んでいただきありがとうございます。カタコトすぎて最初はなんて言ってるのか分かりませんでした。
0読んでいただきありがとうございます! 共感してもらえてよかったです。
0形のあるものが変化するのを認識するのは容易ですが、形のないものの変化をどう認識するのか。その形のないものの一つとして、この作品で扱われている声があります。 あった声がなくなるということ。しかし、それを証明するのは難しいです。なぜなら、道後反復的になりますが、形がないからです。それでも、あったものがなくなったことを証明する手段として、声と同じである「言葉」を用いることで証明ができるのでしょう。 最後「思い出せなかった」で終わるのですが、「思い出せなかった」のは、声の色や質、いわゆる声色というやつであって、そこに声があったということはこの作品で書かれているとおり思い出せるものであります。声があったということ、形のない声がさらに形のないものとしてなくなってしまうということ。普段、僕が考えていることにビビッと来たので、目に止まりました。 以前コメントを寄せた作品もそうなのですが、入間さんの作品がつくられる契機というのが好きで、何でもない出来事や日常のこと、ちょっとした声からこのように作品をつくる姿勢が好きですね。 あと、この作品の肝は、利害関係が結ばれていない二人が、声掛けによって結び付けられることでしょう。一期一会とは言いますが、街を歩けば、目の前に多くの他者がいながらも、それは完全なる他者として繋がりを持つわけではありません。それは利害関係がないからだとも大体言い換えられるでしょう。この女性は、そうした利害関係、金銭のやり取りがなくても、語り手の耳にその声が届いてしまったという。例えば、道端に落ちているゴミ、それはよくないものとされながらも、見て見ぬふりをすれば、関係を結ぶ必要がありません。そうした結ぶ必要のない関係を繋ぎとめるということ自体、何かを開くこと、それがつまり、この作品に収まるという形をもって開かれたと感じております。
3読んでいただきありがとうございます!いつも丁寧に読んでもらえて嬉しいです。 そうですね。ガンバッテネって声が声としてというより、言葉として記憶に残ったからできた作品です。 ありがとうございます!
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