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原発内はフィクションですが真面目に災害対策工事やってます。と一応断っておいての猫詩。
国が管理する原子力発電所は顔認証システムがあり、全ての入門にセキュリティがある。 その検問を通り、敷地内にある会社へと向かう。 事務所のあるビルは3棟並んでいる中の真ん中にあり、そのビルの間の庭先に猫たちがたむろしてる。 みんな肌ツヤも良く、普通の野良猫よりも身体はデカイ。 これもアレか、ゴジラ的なアレなのか、と疑うばかりの大きさである。 三毛猫、黒猫、白猫、ペルシャ猫、中でも一番の大きい猫は鬣猫である。 読み方は、たてがみねこ、である。 鬣猫は獰猛だ。 先日は食堂のおばちゃんの差し入れであるウサギをわずか5秒で完食してしまった。 朝方は眠たいのか機嫌が悪い。 どうやら夜行性らしい。 先端が金色でフサフサしているので触りたいのだが、少しでも触ると鋭い牙とツメでバラバラにされてしまう。 朝はただ眺めるだけで帰りにまだ寝ている鬣猫の尻尾をそっと触るのが最近の趣味だ。 ある日、新入社員がやってきて悲鳴をあげて自分の裾を引っ張ってきた。 「中嶋さん。あれ、ライオンですよね?」 顔面蒼白で唇も青い、体もブルブルふるえている。 「何を言っているの、あれは鬣猫だよ。」 「いや、ライオンですよ!ライオン!何でここにいるんですか!」 急にアドレナリンが回り始めたのか顔が紅潮し息も荒くなっている。 少し立ち眩みを起こしたのか足元がよろけた。 「はぁ、すみません。取り乱しました。そうですよね。ライオンなわけありませんよね。 アレは猫ですよね。あービビった。首の回りがフサフサしているし体も大きいですけど喉をゴロゴロ鳴らして中嶋さんの脛を体で擦ってますもんね。 あ、顔舐めた。 凄いザラザラ感!頬が持っていかれてますよ!あーヨダレでベチャベチャだぁ、って、おーっと中嶋さん何しているんですか!自分の頭をワザと鬣猫の口の中に入れたりして! え?大丈夫ですって?本当ですか?本当でした!スゲーですよ、マジっすか、良く噛まれませんよね。 うわ、中嶋さん!何してるんですか!裸になって蜂蜜を体中塗りたくって! え?えー!鬣猫が一心不乱に中嶋さんの体をペロペロしている!何て表情しているんですか! キモいですよ!え?むしろエモい?マジっすか!ハンパねー!今度は何ですか? いそいそと着替えて、ピエロだ!ピエロの姿だ!そして輪っかを取り出して火をつけたぁ! 燃える輪っかだぁ!そこに?そこに鬣猫がぁ、走り込んで輪っかを飛び越えたぁ! スゲーっすよ!金取れますよ!中嶋さん!こんなパフォーマンスを間近で見るなんて小学生の時のボイジョイサーカス見に言った時以来ですよ! いやーいいもの見れましたよ。あれ?また着替えて、何処に行くんですか? 中嶋さん。中嶋さーん!」 「朝礼だよ。」 「あ、そっか。仕事でした。」 ハッとした顔で咳払いをして後に着いて行く。 原子力発電所の仕事は重大だ。津波、地震、竜巻、テロ等、いかなる災害も対応できるように工事を行う。俺たちは、真剣に、日本を守る仕事をしている。 「あぁ!何か後ろで叫んでいますよ!大変だぁ!所長が頭から鬣猫に食べられていますよ!マジっすか! 血しぶきハンパねー!映画ですか!此処は撮影ですか!どうするんですか!中嶋さん。中嶋さーん!」 「体操始めるぞ。」 「はーい。」 次の日には所長の写真は入れ替わり、飛び散った血しぶきも綺麗に処理されているだろう。 俺たちは、真剣に、日本を守る仕事をしている。 ラジカセの音楽に連れて猫たちは鳴く。 そして今日も何処かでサイレンが鳴り響く。
原発内はフィクションですが真面目に災害対策工事やってます。と一応断っておいての猫詩。 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 984.5
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-09-09
コメント日時 2017-09-14
項目 | 全期間(2024/12/04現在) | 投稿後10日間 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
鬣(たてがみ)猫、という奇妙な存在。飼いならしているはずが、気まぐれに食い殺す、そんな凶暴性を発揮するのに、誰一人として対応しない。異常さに気が付くのは「新入社員」一人だけ。でも、恒常性バイアスが働くのか、この「新入社員」も、組織の一員として❝異常さ❞を〈撮影〉という虚構や〈日本を守る仕事〉という大義に回収して、異常と受け止めなくなっていく・・・ 語り手は中嶋さん、であるらしい。鬣猫が獰猛であることを十分に警戒していて、うっかり触れると〈鋭い牙とツメでバラバラにされてしまう〉ことも理解していて、眠っている鬣猫のしっぽに、そっと触れる・・・それ以上のことはしなかった慎重な〈中嶋さん〉が、なぜ、新入社員の前ではサーカスのパフォーマンスのような芸当を始めるのか。新入社員を、安心させるため? 中嶋さんの背後で、〈所長〉が食い殺されたというのに・・・おそらく現場責任者である中嶋さんは、一顧だにしない。 吉田所長を失った後の原発を重ねました。もちろん、ストレートな社会批判や原発批判、ではなく・・・ユーモアや諧謔の力によって・・・あるいは、劇画風にデフォルメすることによって、辛辣さを軽減した風刺、と読みました。 中盤の、〈新入社員〉の軽口部分、分量が多すぎないか、と思いつつ・・・削れないですね・・・とはいえ、地の文から、ここだけ浮いてしまう感覚もありました。 この会話部分だけ、矩形に追い込んでみてもいいのかな(言葉の塊として出してしまう)そんな表記法の工夫があれば、よりインパクトが効いた作品になったような気もします。
0これは傑作ですね。 鬣をもった猫の描写が、最終的に社会批判にすとんと収束するところの妙を感じました。 猫の描写もやたらと恐怖心を煽るものでなく、ときに愛嬌さえ感じさせる作りになってるのがいいです。 散文詩というよりは、もう小噺のジャンルだと思いますが、 面白かったので、ジャンル云々はあえて問いません。
0花緒さん。まいど感想えりがとう。ここに最初に載せたテーマがテーマだけにこの場所のテーマはやはりこのテーマだな、と改めて気付きました。鬣猫。ただその単語が使いたかったのも事実です。 まりもさん。いつも文章に込めたテーマを汲んでくださりありがとうございます。吉田所長は正に身を削り、福島を守ろうとしました。その行為は何かしらでも、後世に伝えて欲しいと思ってます。が神話は他者に任せてますので自分は自分の文を書いていくしかないですね。異常な事態もそれが日常となれば、普通に生活できると解れば、それを意図的に指示するものがいたら、人は簡単にだまってしまうものです。その時、叫ぶのは詩人ならカッコイイなぁ。と思ってます。 白鳥さん。ありがとうございます。動物好きな白鳥さんに鬣猫はヒットされたのでしょうか?気に入ってくれてくれたなら幸いです。確かに詩とか詩じゃないとかこだわらず言葉を感じてくれたならそれで良いと思ってます。 では。
0ああ、しまった。 また白島さんを白鳥さんにしてしまった。 なんでだろ? 白鳥みたいな純白なイメージだからかな?アイコンはホワイトタイガーだしなんか冬のイメージなんですよね、だから白鳥が出てしまうのか?とにかくすみませんでした。 ちなみに、えりがとう。はワザとです。
0純白そのものの私(!)を「白鳥」と読んでくれて、「えりがとう」(笑 白鳥の歌は死の象徴、私の詩集も死がテーマ。それで潜在的に結びついてしまうのかもですね^^ なお、アイコンはホワイトタイガーではなく雪豹です。詩集冒頭のタイトルでもあるのです。
0読んでくれ→呼んでくれ、です。訂正します。
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