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フィラデルフィアの夜に XXI
フィラデルフィアの夜に針金が、消えました。 夜、少女が歩いていく。 たった一人、不用心に。 寒い風が吹く、夜の道を。 少女は思います。 「何故、今ここにいるんだろう」 まるで操られているように、足は歩みを止めません。 歩いてはいけないはずのこの道を、危ないはずのこの路地を。 引きずられているように進んでいく。 ガラスが割れ、銃声が聞こえ出す。聞きなれない音と共に。 野良犬が唸り、そこの住民が騒ぎ出す。 するともう、悪い香りのする人々が取り囲んでいた。 「ああ、ああ。なんで私は ざらん」 ざらん さっきから聞こえてくる、聞きなれない音。 ざらん ざらん ざらん ざらん ざらん ざらん ざらん ざらん ざらん ざらん ざらん ざらん ざらん 少女と取り囲む男たちがあまりに大きな異様な音に周囲を見回す。 そのうち一人の男が、指さす。 こいつだ、と。 少女を。 ざらん。 一瞬の静寂。 少女は思わず、顔を覆う。 だが、その手の間から、飛び出してきた。 針金が。 ざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらん 少女の顔の七つの穴々から。 濁流のとなって洪水となって、その一帯を満たしていく。その街を翻弄する。 針金が。 全てを覆い、全てを飲み込んでいく。 ざらん すると。 少女の側に、針金が集まってきた。 それは、一つの柱の様に、樹木の様に、天へ伸びていく。 天へ向かう針金。 その間に挟まっているのは、銃や刃物でした。 他には危なさそうな物や、許されていないだろう代物。 それらが一斉に、針金が伴って登っていくのです、天へと。 ざらん ざらん ざらん ざらん ざらん ざらん ざらん そして天へ登り、消えていくのです。 黒い針金は、真っ黒な夜空に飲み込まれていきます。 まるで天の帳に針金を引っ掛けて、登っていくかのように。 そうして何も見えなくなっしまいました。 その街に遭った悪い物が、消えてしまったのです。 針金と共に。 ただ、それからと言うもの物陰や片隅に転がっているのを少女やその近くに住んでいる人は見つけます。 人を傷つける事が出来なくなった銃や刃物の部品が、針金を纏ったオブジェになっている物を。 また知るのです。 それらが何かを痛切に訴えている事を。
フィラデルフィアの夜に XXI ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1278.3
お気に入り数: 1
投票数 : 1
ポイント数 : 10
作成日時 2021-02-08
コメント日時 2021-02-13
項目 | 全期間(2024/11/22現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 3 | 3 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 2 | 2 |
構成 | 3 | 3 |
総合ポイント | 10 | 10 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 1.5 | 1.5 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 1.5 | 1.5 |
総合 | 5 | 5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
色々な方向に向かっているコメントですね。自分なりに解きながら返事してみます。 その前にまず言うべき事。 元にしようとしたのはヤマケイ文庫「アイヌと神々の物語 炉端できいたウウェペケレ」収録の「黒キツネのイナウ」だったんですが。 なんか全く違う話になってしまいました。 イナウなら蛇が出てくる話でした。 武器が武器の性質を持たなくなったら、飾りでしかないですよね。 ここでは全く唐突に理不尽にそうなっています。 少女がカムイのような存在に憑依されこのような働きをさせられた可能性はありますが。 そうだとしても意図がはっきりしないので、どのようにも受け取れますね。 バカの意見も否定しえないかと 承認欲求が満たされない、とは難しい問題かもしれないです。 ただこういった問題は、釈迦だとどう感じるか、というのを考えるのは有効かもしれません。 そして釈迦はそれはそれでどうでもいい、と答えそうです。 なにせ「犀の角のようにただ一人で歩いて行け」と言った方なので。 とすると、自分自身が自分自身を十分に理解すればいいような気もします。 >(絵を描くことで武器をとらずにすんでいるんだよ。) と言う人には通じないかもしれないですが。 >闘争本能にまみれた血を針金が絞り出してくれるのでしょうか。 そういった物を制御下に置くのは悟りかもしれないので、魅力は消えないかと。 >針金によって >わたしのうちなる闘争本能や武器 >それらみんなからめとられてから出発することになんとなくこの詩との出会いへ こう見るとどこか仏教的ですね。 自分が仏教オタだからかもしれませんが。 どこまで返事として有効かわかりませんが、感想感謝です。
0元々はフィラデルフィアワイヤーマンが発想の元になっていたので、針金は必須かと。 (知らない方のために言うと、1982年のフィラデルフィアのごみ捨て場で発見された制作者不明の、針金を様々な物に力づくで巻きつけられた1000点を超える作品群。道具を使っていないと見られる事から多分、男) 最も、あまりフィラデルフィアワイヤーマンと関係がなくなって来ているのは事実ですが。 それでもこの書き方はやりやすいので、続けていきますね。
2極論を言えばすべての武器が無くなれば戦争は起こらないかもしれません。ですがそれは現状ではありえません。書き手の方が伝えたかったのは戦争が起こるのは、「武器のせいだけじゃなく人間の心が大きく関わってくる」と思っています。後ものすごく左の意見ですが日本が銃社会でなくてよかったと思います
0武器がなかったら拳で殴りかかって来やしないかとも思います。となると、大乗仏教の空思想が言うには「それ自体は実体がない、その人の意識の投影である」だそうで。どう使い。どう感じるかはそれぞれではあります。 ただ正直、その指摘は予想外の方向でした。 確かにそうよ読めますね。
0ここでは少女の意思とは全く無関係に、ほぼ憑依されたような状態でやってはいます。 おそらく少女はこういった事を望んではいないかと。 ただ祈り。 無意識的にそれは行っているものかもしれません。 実は自分ではそういうことを考えてはいなかったのですが、そう読む余地はありそうです。 自分もまたカムイのような何かに突き動かされた結果の作品かもしれないです。 あと最後の一行ですが。 元となったのがフィラデルフィアワイヤーマンの作品群で、それらの独特の雰囲気が何かを訴えているように感じた事から書きました。 それが自然かと。
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