あめが降らない冬の日には
いつでもかわりに
見えない 名前がふりそそぐ
ちち、ははの名前、もうあわないすべての名前、
ぼくの、あの人の、うまれなかった子どもの、名前、
光せんをすべりおちて
くうきをそらにかえていく
かじかんだ手を、ひとつの生き物にする、
名前は、
ここをすこしあおぞらにして、とおい頭上を
すこし、ここにする
けれど、ぼくをひとりにする
夕ぐれのこうえんはあの日まで、たくさんのぼくでいっぱいだった
ぼくたちは、きみたちでもあって
呼吸は透明だった、
ボールは何年も何十年もころがるみたいだった
かえりみち、いつもの母のふりをして
ひとつの名前がぼくを待っていた
やさしく、手をひかれて、ひとりになるのがわかった
ぼくたち、は、うしおくんになり、まさになり、れおくんになり、みつるになり、かいになった、
そのすべての文字がぼくの肌にぬいつけられた
湿疹みたいに
あの日、ひとになったぼく、は、あたりに、物たちに、やさしい小さな生きものに
名前をおしつけて、おおきく、それでも猫みたいに
おなじ眠りにかえる
きょうのよる、またひとつ、きみの名前を
わすれる
「雪みたいだね」
きみが何をたとえたかをわすれて
こえだけがのこる、のこって、
わすれること、息をすること、肌にきざんだ名前たちから
そらをすいこむこと
きっとそれだけが
名前をえきたいに、くうきに、かえてくれる
水させてくれる、
なづけた人たちの、巨大なふざい、をみつめること、
うたうこと
ゆきみたいに、何もないね
ぼくの名前がしんでしまったなら
きみのさいごの名前が
な、ま、え になってふるだろう、
いなくなれないよ ときみが言っても
かつてのぼくたち、きみたちに
ふりつもって
雪みたいに、かすかに
あたたかければいい
作品データ
コメント数 : 7
P V 数 : 1702.1
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 10
作成日時 2021-01-28
コメント日時 2021-02-10
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 3 | 3 |
前衛性 | 2 | 2 |
可読性 | 2 | 2 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合ポイント | 10 | 10 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0.7 | 0 |
可読性 | 0.7 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0.7 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0.3 | 0 |
総合 | 3.3 | 2 |
閲覧指数:1702.1
2024/11/21 19時49分22秒現在
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名前ってやさしいちいさな生き物でしょうか?それとも生まれた生まれなかった全ての存在のことでしょうか?詩は長文の割に読みやすかったです命の儚さと尊さが丁寧に綴られていています
0個人的に雪、透明、喪失といったイメージ、モチーフにこだわりがあるせいかとても心地よく(詩であることにも関わらず)自分事みたいに読ませていただきました。 雪の、色があるようでない不思議さ、みんな覆ってしまうようで、時にすぐなくなってしまう儚さ、過去にさえ思い出にさえ降って(関わって)しまいそうな感じ 言葉にしがたい静かで厳しい詩情があるからこそ、おそらくぼくにもきみにも、名前にもなまえ以前のなにかにも、詩にもなり得てしまうような…そんな抒情性を全体や細部の言葉使いから感じました。
0名前に対する拘りやたくさんのぼく。名前を押し付ける行為は眠りを誘発し、「またひとつ 君の名前をわすれる」? >ぼくたち、は、うしおくんになり、まさになり、れおくんになり、みつるになり、かいになった この詩行が前提になっているのかもしれません。敬称の有無など興味深いと思いました。
0小林素顔さん どうもありがとうございます。喪失はこの詩の核にあるものだと思います。冬の寒さを受け入れる、という表現にも、書き手ながらしみじみとさせられました。
0福まるさん コメントありがとうございます。名前というものの得体のしれなさが、そもそもこの詩の出発点なのかもしれません。そういう意味では、小さな生き物であると同時に、生まれられなかった存在であっても不思議ではないのかな、と思っています。名前は名前として、生命を帯びていく、みたいに。
0あささん どうもありがとうございます。自分事のように読んでくださったということで、とても嬉しいです。どうしたら詩であると同時に、自分事であるものを書けるか、といつも考えています。 雪は一回的なものでもあるけれど、なくならないものでもあり、どこか時間というものから抜け出したような存在だと、なんとなく僕も思います。
0エイクピアさん コメントありがとうございます。固有名を付けられたものは一つの何かになってしまうような感覚があります。たくさんの僕、が分裂して、それぞれの存在になっていくような。もしかしたら引用してくださった行はそういうものの反映なのかもしれません。
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