ある寒くて風の強い夜のこと
今日は繁華街から少し離れたところにある店の話をしよう
店には看板がある
とてもよく光る
道路標識のような看板
これは酔ったあなたが忘れずに
あの空間に体を運ぶためのもの
もう一枚の
木と真鍮で作られた
とても小さな看板は
あなたの心を運ぶためのもの
小さな看板には貝の絵が描いてある
貝は目印
誰もが家に帰るための
あの看板には
幾筋かの光が描いてある
その明かりは目印
あなたがあの店に帰るための
旅を意味する名を付けられたその店は
帰る場所でもあり
また尋ねる場所でもあり
再会する場所
出会いそして別れる場所でもある
扉を静かに開けよう
あの扉は重たいはずなのにとても軽くて
中からは暖炉のような光が溢れているから
そこがあなたの尋ねるべき場所だということがきっとすぐに分かる
夕暮れ時にはもう開いているあの店の
日が暮れてとりわけ寒い夜更けには
無垢材の大きなカウンターに
客が一人、二人
襟を正して尋ねるべき店の意外な暖かさに
どうしてもあなたはだらしなくなる
好みのウイスキーを飲む
一杯、また一杯
一本、また一本とボトルが並ぶ
灰皿に何本か吸い殻が並んだ後
家に帰るために席を立つ
帰り道はとても寒いだろうが
何故だか心は温かく
床に就けばすぐに眠られる
頭の中で絡んだ針金が
そっと毛糸の様になってほどけるようにきっと心は穏やかになり
口の中から飛び出しそうな言葉が
そっとこぼれて消えていくように霧散する
疲れたあなたの体もきっと柔らかくなり
また明日を迎えることができる
今日もまた旅に出る
明日また旅をするために
出会いそして分かれるために
泣きそして笑うために
私たちは店の扉を開ける
扉はきっとカモメの様に鳴くだろう
作品データ
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作成日時 2020-12-15
コメント日時 2020-12-21
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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2024/11/21 20時54分35秒現在
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淡白なようで実は温かみがある文章が続いていてとても好きです。口下手だけど、時間をかけてゆっくりと相手を慰めようとする人のような、そんな感じです。 日常をテーマにするのって、単調になりすぎないように気を配るのが難しいですよね。
1コメントいただきありがとうございます。 これは私の大好きな店への恋文のつもりで書いたものです。 >口下手だけど、時間をかけてゆっくりと相手を慰めようとする人 と書いてくださいましたが店主がまさにそのような人物で、何とはなくそうした雰囲気を感じ取っていただけたようならこの上なく幸いです。 確かに、やや単調に過ぎる気もいたします。 日常を書くということは何かが起こるわけではなくそこにあるものを書こうとしているからかも知れませんね。 次にそのような機会があれば日常ができあがるまでやそれがなくなればという視点で書いてみてもいいなと思いました。
0いつも丁寧なコメント痛み入ります。 また、改訂前との比較、本当にありがたいです。 その様な視点で考えたことはなかったので非常にありがたいです。 「とにかく分かりやすく」と考えがちですが「分かっていただける人」に端的に発信した方が届くものもあるかも知れませんね。 機会があればもう一度練り直すかも知れません。
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