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名前のない夜
冷たい闇の中で光る自動販売機に手を伸ばす。 ボタンを押して吐き出されんとする商品が、落ちた時に響く音がやたらと寂しい。こんな気持ちは誰も知らないでいい、と思う。冷たい10円玉が手のひらから、溢れ落ちないようキツく握りしめて駅へ歩く。 いつもより随分と人が少ないくせに、同じ時間おきにくる電車の虚しさ。踏みつけた点字ブロックの歪な凹凸を革靴の底に感じながら、人工的な灯りに飛び込まざるをえない。自分の不甲斐なさが腹立たしい。願うなら瞼の裏で幸福な夢を見ていたいのに。 闇の中に家の灯りを捉えながら走る鈍行電車。腰をおろしてから気がつく、ガラガラなのに向かい合わせで座る気まずさ。窓ガラスに反射した自分の顔なんて見たくないから、目を伏せて時計の針が走るのを目で追う。夜行バスはまだ来ない時間だ。最低だ。 憂鬱を履いて足音を響かせながら、夜を彷徨いバス停へと辿り着く。ぬるいコーヒーを赤くなった手で包みつう、私を運んでくれるバスを待たなくてはならない。 待機列の人々は携帯に夢中。世界は平行、戦場にあるようだ。乗車券を受け取る運転手はロボットじみた無機質さでもって、世界を分断している。 一人一人が違う世界を抱えながら走る夜行バスの孤独。カーテンで閉め切られた閉じた世界。星も見えない。 こういった時に抱く感情の名前を、誰か教えてくれないかい。名前を持たないこの夜は、ひどく寒く長すぎる。
名前のない夜 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 966.4
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2020-11-25
コメント日時 2020-11-25
項目 | 全期間(2024/12/22現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
こんにちは。淡々と、細かいところまで描く語り口のなかに、語り手の感じている寒いまでの心細さを感じました。
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