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灌漑
漸く、解剖しようと決めた。白を塗る気力がとっくの昔に消え失せていて、大好きだと自覚する事がさよならの裏返しになるのかもしれない。女の子を身に付けていたのは、単なる恐怖心からだった。主語も、動詞も、本当は要らないのに。嫌いな三文字を呼ぶ声がしたら、毒を飲むものだと身体に教えこんで、いつしかダムに埋めて生きていた。アクリル板を隔てているのだと認識するまでの二時間。僕の中で息をしていた彼の髄が、言葉に食われていくまでの寿命。僕が生きているのか、殺されているのか、生まれるべきだったのか、代わるべきだったのか、もう余白すら残っちゃいないから、寧ろ利用してやろうと考えた。無知な人間ですと、ご丁寧に吊革を握って。もうずっと、夜に殺されたくて堪らないのを、助長して笑っている。一人で演じていたくはないからと、演者未満の観客を道連れにして。名前なんて要らない、僕という一人称と、あなたという受け皿があれば、幕は上がるから。一瞬だけ、月に当てられた顔が歪んでいたのなら、それは快楽という感情だよ。ごめんね、僕は、人間にしかなれない生き物だから。あなたの顔も、情報も、感情も、逆流と一緒に壊してしまうから。もうずっと、僕を生かそうとして酸素をあげた記憶がなくて、呪い続けてきた代償ばかりが痛覚を襲っていた。轢かれた野良猫、羽根を毟れば無力でしかない蝶達、名前のない犯罪を暴けない大人の群れ。何処にも無いよ、綺麗なんて。あったとしても、僕には扱う事が出来ないワレモノ。だから彼女は、僕より幸せで、不器用な人なんだなと結論付けた。そうでもしないと惨めな朝に焼かれてしまうからだろと、背後で首に刃を突きつけられたような悪寒がして、思わず着信履歴を漁る。相変わらず字面が嫌いになって、僕をありったけ口に含んで、嘔吐した。成分の欠片すら取り込まずに、無駄になった善意が混じり合う。そんな様を見て、ふと、貴方を思い出していた。冬に殺した貴方が、今も好きだった。
灌漑 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 893.9
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2020-10-19
コメント日時 2020-10-19
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
人称の変化が面白いですね。最初はどうも女性が男性に対して書いているように感じました。これはおそらく私が想像しやすい心象だからでしょうか。その後、何とはなくですが「わたし」対「それ以外の数人」のことの様に感じました。1人称と2人称が入り混じることで不思議なある種、不快とも言える意識の混ざり具合が表現されているなと思います。
1こういうのは国語の先生に出したとしたらペケだろうな。だから現代詩とかってのはどっちかっていうと美術の先生とかに出さないとあんまし分かってもらえないと思う。ポエムは普通の文体で書いても仕方ないからってんで、ちょっと狂わせて書くものですが、これはそのクレイジー加減がすごくいい感じ。私はしがない通りすがりのパンピーですが、はなまるさしあげます。あとゼンメツ兄貴の文体を思い出しました。
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