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うつろな夏
蝉が鳴き、夏は盛りに、亡者となつたわたしには、この夏が、とわにまわると思われた。 うつろうつろに、地面を見やる、蝶の死骸に、蟻の群れ。 紫の、美しい羽、下卑た手々が、引きちぎる。 蝶は、舞のとき、細心に美を演出していたにちがいない。こと切れる、その終りまで、自身を統御していたにちがいない。 わたしの心は、わずかに揺れた。愚かなこと に、わたくしは、かの女を、所有しようと欲したのだ。舞うことこそが、かの女の、本懐 だつた、はずなのに… なにを希おう、なにを望もう、わたしがなにをしようとも、蝶は舞う、蝶は舞う… せめてかの女が、最期のときは、わたしの上 に、安らつてくれるでしょうか? よりかかる、あなたの|感触《ねつ》が、どれだけわたしを、|幸福《しあわせ》にしたことか、どれだけわたしを、純然にしたことか! あなたのことを、自然なままに、愛すること ができたから、あなただけに、わたしの深奥 の、秘密の御酒を、捧げてやりたかったのに… もはやひとりとして、自然なままに、わたしは愛することをしないでしょう。自然と愛するということにも、作為があると、気づいてしまつた。 けれど聞いてください。嘘を嘘だと、気づきながらもつくことは、そう簡単に、できることではなく、あなたを愛したいと、血を吐いたからこそ、果たせた、ことでして… ちぎれた羽が、ぎらぎらと、夏の陽射しを反射していた、蝶はやがて、ちりぢりになつて、消えてしまう。 蝉が鳴き、夏は盛りに、亡者となつたわたしには、この夏が、とわにまわると思われた。
うつろな夏 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1239.6
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2020-07-15
コメント日時 2020-07-17
項目 | 全期間(2024/12/22現在) | 投稿後10日間 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
「|感触《ねつ》」や「|幸福《しあわせ》」といった記法には意味がなくてはならないはずだ。 この行以降では「わたし」の告白が一段階具体的にあるいは直接的になっていると見ることができる。 つまり、その行以前の「所有する」というのがどういうことか、その行以降に書かれているし 「自然な」状態とは、その行以前では「蝉」「蝶」「蟻」によって担われている。 今、僕らはどれだけ自然だろうか。僕らの意識に対するギャップをこの詩は描こうとしている。 「まわる(流転する)」亡者が自然なら、自然である「蝶」は「わたし」だろうか。ギャップがあるので、僕にはそうとしか読めない。
1幸子さん、コメントありがとうございます。感触、幸福に括弧がついているのは、それはルビをふろうとしたために残った記号にすぎません。 こちらのサイトにはまだ不慣れなもので。ごめんなさい。とくにその記号には意味がありません。 幸子さんは、「自然」という言葉から、蝉、蟻、蝶を連想したのですね。面白い読み方です。詩はあらゆる解釈を許しますから。 読んで頂きありがとうございます。
1『もはやひとりとして、自然なままに、わたしは愛することをしないでしょう。自然と愛するということにも、作為があると、気づいてしまつた。』 この辺りは深いなあと思わされました。 『に、わたくしは、かの女を、所有しようと欲したのだ。舞うことこそが、かの女の、本懐』 この辺りは「嫌いじゃないなあ」というところでした。いい意味で、女の人をめちゃくちゃにまつり上げている感じがあって、気持ちはかなり理解できます(笑) 『蝉が鳴き、夏は盛りに、亡者となつたわたしには、この夏が、とわにまわると思われた。』 と繰り返されている部分も、語感的にかなり味わい深かったです。 ただ、これは詩なのか、と問われると、「うーん」と悩んでしまうところがありました。かなり個人的で特殊な感情な気もしていて、これを多くの人に理解できる地平に落してきて初めて詩なのではないかなあ、と思う僕もいた感じです。 とはいえ、このニュアンスは好みです。この雰囲気を極めきった先を見てみたいと思った詩でした。
1白目巳之三郎さん、読んで頂き、ありがとうございます。 わりと白目巳之三郎さんの好みの詩ではあったようで、そこは素直に嬉しいです。 文章の難しいところは、あまりに普遍的なものは陳腐に堕し、あまりに個人的なことは伝達不可能であるこ とだと思います。普遍と特殊のはざまでいかにものを書いていいか、僕にはまだわかりません。白目巳之三郎さんの目にはこれはまだ個人的なものにとどまっているとのことなので、もう少し磨いてみることにします。 詩ではないと仰っていましたが、ではどのようなものが詩だと思いますか?白目巳之三郎さんの考えが知りたいです。いちお僕は散文詩を書いたつもりなので。 白目巳之三郎さんの作品も読みたいです。いちばん自信のある詩はどれでしょうか? 感想を書きます。 ありがとうございました。
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