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フィラデルフィアの夜に XV
フィラデルフィアの夜に犬が鳴き叫びます。 何かに気付いてほしいかのように。 ある夜の事。 犬が突如ハッと目覚め、叫び始めました。 ただその犬は壁の方向を向いて鳴くばかり。 すると近くの家の犬も鳴き始める。 それは次々に鳴き声は拡散していく。 同心円状に広がる叫び声は、一点に向かっている。 野良犬が一匹、走っていくのが見えます。 その犬に続々と続いていくのも。 それは犬たちが鳴き吠える方向。 その方向へは繋がれていない犬たちが吠え叫び続け走っていく。 向かうのは街の中心。うなり上げ、駆けていく。 人々もまたその方向へ。 時に犬を連れ、時に各種の道具を携えて。 何があるか、何が起こっているかわからないがために。 犬たちと人々が向かう先。 八方から集まる警戒心と好奇心は、空き地となった空間に集まる。 人々は明りを照らし武器を持ち警戒し、犬たちは吠えながら鼻を地面つける。 一匹の犬が急に怯え、驚く。 人々のライトが一斉に照らすと、何かが蠢めいている。 何かのゴミ? 風のないこの日、動くはずもない。 犬が各所で怯え、驚く声を出す。 そこにはどれも、蠢く何かが絡み運ぶ、小さなゴミがありました。 ワン。 ある犬が通る声を出します。その一声をきっかけに。 犬たちはタガが外れたかのように吠え続ける。 今までと比べる事が出来ない、犬の鳴き声の濁流は明らかに何かを訴える。 犬たちが鳴きわめく一点、そこへゴミが集まっていく。 そして形作られていく。 様々なゴミに、そのゴミに絡み運ぶ針金がその場所に。 地面から少し浮かびながら、でき上がっていく。 小さな子供の姿を。 大きさは赤ん坊くらい。 遠目には本物と見えなくもない、赤ん坊が作られ、でき上がっていく。 吠え続ける犬たちと、茫然と武器を構える事ができない人々の前で。 そうして、でき上がってしまいました。 生まれてしまった。 ゴミと針金でできた赤ん坊が。 すると。 その赤ん坊は、地面へ溶けていくように、消えました。 いつの間にか、太陽が昇っています。 犬たちは黙り、一点を見ています。 スコップを持った人が、意を決してその場所を掘り出します。 少し掘ると、掘り当てました。 死んでいる人がいたのです。 それは本物の人間の死体で、妊婦でありました。 何があったのか、誰なのかわかりません。 その死体のすぐ側、あの赤ん坊がいたのです。 その死体に護られるように、護るように。 すぐに棺が用意され、二人を共に入れました。 犬たちはそれを見届けると、元の住処へ戻っていったのです。 あの妊婦の死体とゴミと針金の赤ん坊は一体誰で、何だったのか未だ判然としません。 ただあの二人を葬った墓地に、犬たちが集うことは事実でした。
フィラデルフィアの夜に XV ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1327.3
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 3
作成日時 2020-07-07
コメント日時 2020-07-13
項目 | 全期間(2024/12/22現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合ポイント | 3 | 3 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 3 | 3 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
今回はヤマケイ文庫「アイヌと神々の物語 炉端できいたウウェペケレ」収録の「犬は聞こえた」から発想を得ました。あと梅原猛が「縄文の神秘」に書いていた福島県にあったという風習からも。 この連作で針金は一体何なのか、と言われると好き勝手書いているだけなので、自分でもはっきりしません。 ただ塊になっているだけでも独特の存在感があったり、物を巻き付けたり縛り上げたり、そういう自由さは意外と扱いやすい詩の題材ではあるようです。 小説家になろうでまとめて掲載しているので、よろしければそちらをどうぞ。 https://ncode.syosetu.com/n5588fv/
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