波濤
潮風
煤けた畳縁に打寄せ
差し招く
揺れる細腕は
手首に整然と並ぶ結目から
口笛を響かせる
自己を繋ぎ止める為の
懇願に似た憧憬
静謐な木天井の
亡母の死顔から
滴り落ちる
雨粒を摘み取り
此方の彼岸か
彼方の此岸かを
月暈に翳し選び出す
遊び歌
茫漠と拡がる認識の魍魎が
湿る足跡を遺す
曖昧な自己だ
わたしは
瞳孔の円周に水子の指を掛け
破瓜を迎えた
交差する畦の泥の匂いを
薄命のかたちに解き
再び編まれた荒縄の中央に
吊るされている
( 此処に天使は居ない筈だから)
服を脱ぎ
血に塗れた内腿を拭う
鼓膜を叩くユピテルの星の強い磁力が
痣の黝色へ惹き付ける
鋭利な思慮と
鈍色の比喩
( きっと、神様の眼には映らない)
わたしのなかの小さな愛が首を括る夜
鉄床を叩く音が聴こえる
―― ひとつ、死んだ母の為
―― ひとつ、死んだ父の為
―― ひとつ、死んだ兄の為
( あとひとつ)
「裏山へ飼犬を埋めに行きました
そうして少女は人間を辞めたのです」
剥離した
薬指の爪で過去を占う
窓枠の錠は開いていたか
鎖されたのは
波濤
潮風
波濤
潮風
( 私を道連れにして)
作品データ
コメント数 : 1
P V 数 : 1265.6
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作成日時 2020-06-22
コメント日時 2020-06-24
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/12/04現在) | 投稿後10日間 |
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技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
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2024/12/04 02時23分00秒現在
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少し厳しい意見になってしまうかもしれないのですが(私個人としても出来ているという訳ではないのですが)、「月暈に翳し選び出す」や「痣の黝色へ惹き付ける」といった言葉がはっきりと体感をもって理解して使っている言葉なのかどうなのか、疑問を感じてしまうところがありました。(記憶が正確ではないのですが)吉行淳之介が自分の彼女か女友達か忘れましたが、「からだ」という言葉を表現するのに「躯」という漢字を彼女が使っているのを見て(吉行淳之介は「からだ」と書く時にいつも「躯」と表現していたようなのですが)、それは使ってはならん、自分がそのように「からだ」を「躯」と表現するのには個人的に深い由縁があってのことで、それはお前が使っていいものではない、と言ったという逸話があるそうです。そんな感じの少々、肉体感覚から離れた言葉遣いが行われているような、そんなニュアンスをこの詩の言い回しからは感じました。(体感に近い言葉しか使わないように努力すべきだというのは私の価値観なのであしからず。) ただ、「裏山へ飼犬を埋めに行きました/そうして少女は人間を辞めたのです」とか「認識の魍魎」といった表現は非常に魅力的でした。比喩の結びつきがもっと強固になった詩を見てみたいと一読者として高望みしてしまうような詩であったのは確かです。
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