いつか跳ねたかもしれない人の顔が車窓を通過する。
見切れるまで眺めたぼくの顔をあなたは捉えることができたでしょうか。
あなたの悲劇が如何程であろうとも今の私にはコミックの一場面にすぎません。
わたしは今日も人を跳ねた。
首の違和感をおぼえると、そういえば今日だったと思い出す。
人を跳ねても墓地はいらない。
いま対向車が飛ばした人間も、そそくさと歩道に戻る。
跳ねた人間が捨てたタバコがついて、引火もしてら。
おれの手元にはタバコがなかった。
車のボンネットには原爆の人影のように血がベットリとこびりついていた。
死んだ人間は歩道をあるいている訳ではない。
ぼくたちの速度が緩まる時を伺って、側を歩いているだけ。
俺たちが墓地にいるようなものだった。
俺の後ろでは道すがら連れ込んだ女を連中が犯してる。
ここにいる全員の家族を車窓から覗いている。
女の家族も連中の家族も並ぶ、踏切の前。
俺たちは家族を横目に、その体液をさらしながら進んでゆく。
虫かごの生き物の行方を見れるのは同じ速度で動けるからだ。
俺たちの行方を見たいならここにカメラを置くしかない。
作品データ
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作成日時 2020-06-11
コメント日時 2020-06-15
#現代詩
#縦書き
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2024/11/21 21時01分18秒現在
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時間軸が非常に奇妙な形から始まり、それから、一つに収束していくという流れが、実に心地よい詩でした。(「いつか」→「今日も」→「そういえば今日だった」→「引火もしてら」→「ここにいる全員の家族を車窓から覗いている」などなどこの辺の流れに時間のねじれと収束を感じました。)ただ、私個人の意見となりますが、最後の「その体液をさらしながら」以降、ねじれのすがすがしさと、収束していくすがすがしさが失われ、難解な、ある種衒学的な雰囲気をまとって終わっていると感じました。徹底的に難解にするか、それともさわやかさを貫くか、どちらかをしてほしかった、と思ったところです。ただ、とても、不思議な空間に誘ってくれる素晴らしい詩でした。ありがとうございます。
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