私は教室の隅が定位置の陰キャである。周りのクラスメイトとは距離を置いて、やれアニメだ、やれアイドルだ、部活がどうだ、クラスの誰誰が何某を好いているなどのくだらん話を鼻で笑っている。
陰キャだとバカにするがいいさ。私が一番周りを見ていることに気づかずに笑えばいいさ。
私はある日、クラスメイトの山下さんが筆箱を隠されて泣いているのを見ていた。無理にバカと付き合おうとするからいじめられるのだ。
しかし、思わぬ事が起こった。山下さんの筆箱を何人かで投げて遊んでいるのをを呆れながらみていた時だ。投げ損なった筆箱が私の足元に落ちたのだ。私が拾い上げると山下さんが訴えるように私を見ていた。私が筆箱をいじめっ子たちに投げた時、山下さんの目を見ることが出来なかった。それからというもの、度々私の足元に筆箱が飛んできた。私はその度に筆箱を彼らに投げ返した。
いつしか私の定位置は教室の隅から彼らの方へと引き寄せられていった。彼らは磁石だ。彼らの行動が常にクラスメイトを左右する。私は砂鉄の一粒になったのだ。
ある日の放課後。靴を隠された山下さんが泣いていた。私は急いでいるフリをしてさっさと帰ろうと思った。校門近くの植え込みで山下さんの靴が捨てられているのを見つけた。
誰にも気づかれないように周囲を見渡す。靴を拾い、急いで山下さんの下駄箱に戻した。これは誰への贖罪だろうか。
逃げるように早足で帰る途中、友人の竹内と出会った。
「急いでるのかい?」
私は必死に平静を装った。
「いや、別に」
竹内はイタズラっぽく笑った。
「さっき、下駄箱のとこでお前のクラスの山下がさ、自分の靴見つめて突っ立ってんの。あいつなんかキモイよな」
できるだけ残酷に、蔑むように、嘲るように、私は言った。
「だよな」
むしり取られ
かき集められた
雑草に紛れ
私は
捨てられた靴だ
踵が潰れていた
茶色い泥が跳ねていた
踏みつけた踵の重さ
に似ている
水たまりを踏んだ時
に跳ねた泥
に似ている
私を見る目が
やがて
いくつもの目が
私に注がれる時には
私は言うだろう
「だよな」って
捨てられていた靴の踵を踏んで山下さんが私とすれ違う。
作品データ
コメント数 : 4
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作成日時 2020-06-09
コメント日時 2020-07-07
#現代詩
#縦書き
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2024/11/21 20時56分30秒現在
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はじめまして、ご投稿ありがとうございます。 虐めの場における傍観している立ち位置の人物がわかりやすく描かれていると思います。複雑で相反する気持ちがありながら、周囲に流されて自分を守るなかで出てくる、だよな、という言葉がさり気ないですが上手く着地していると感じました。 散文と行わけのバランスがなかなか良いですね。ただ極論すると行わけの詩だけでも表現できるかな? いや、敢えて補完するように書いて散文と詩を混ぜた書き方を試行されているのかもしれませんね。詩だけで十分に描かれていると感じるが故にこのような書き込みをしていますが、総じて丁寧に書かれた作品だと思います。
1読んでいただきありがとうございます! コメントの返信の仕方が分からず遅い返信になりごめんなさい。 散文詩と行分け詩の共存を目指してみました。 丁寧に読み込んでいただきありがとうございました!
0高校生の頃でしょうか。皆、「その場」以外の場所を持っており、これから先に多くの「場」を手に入れるはずなのにも関わらず「その場」しかなかった閉塞感。そしてそこから飛び出す怖さを思い出しました。
1読んでいただきありがとうございます! 思春期特有の不安定さを込めたつもりだったので、そういってもらえると嬉しいです! ありがとうございました
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