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無能
私は社会人として不快、不満を溜め込みながらせっせと労役に従事する。私は営業車に乗り込むなり、プルームテックと呼ばれる加熱式タバコをスパスパ吸う。赤信号が現れるたび急ブレーキに近いレベルで停車するのは心ここに在らずだからだ。フロントガラスに浮かぶ光景は、教えられただけの名刺交換、教えられただけの受け答え、教えられただけの聴き上手であり、体が紐でカタカタ操られたまま目だけギョロギョロと動いて分離している。高校生の時ボランティアに邁進していた時は肉体と心はぴったりなのであった。 次の日辞表を叩きつけて二度と会社へ行かなかった。2019年の夏に震度7の地震が勃発し、多数の犠牲者が出たからだ。私は会社を辞めた直後に現地へ向かい、震災復興のボランティアを行った。 ボランティアでは複数の参加者に出会った。Bという青年はせっせと仕事をし、その姿はいきいきとしていた。Bに話しかけると、私は人の役に立つ事をしたいです。人が喜んでいるのを見ると、とても嬉しいですと語った。Cという女性がいた。なにやら、有給を使ってまでここのボランティアへ参加したらしい。曰く、有給を消化してでも、参加して多くの人の命を救いたい、とのこと。 Zという中年がいた。彼は誰よりも先陣を切って働くが、都度失敗しては優秀なBやCがせっせと仕事をし、解決していた。Z曰く、ボランティアは他人の為と多くの人が言うが結局は自分の為だ、と偉そうに語った。 暫くして、BとCはボランティアを辞めた。曰く、少子高齢化に伴って高齢者が疎まれる昨今、そういった風潮から老人の方々を支える会社を立ちあげるとのこと。BとCが前述の会社を立ちあげるとのことで、私も賛同した。 具体的には、一人暮らしの高齢者への対話、病院などの各施設への送迎、家事の支援などだ。特に対話を主軸とした経営方針を固め、対話は直接訪問する他、オンラインでの対話サービスも主軸にした。オンラインでの対話は月額18000円、直接訪問は25000円、送迎など各種サービスは対話サービスの契約締結者に限定して、別途費用が掛かるものとした。立ち上げ当初は経営は大変厳しいものだったが、新型コロナウイルス感染症に伴い自宅待機が増えた事で、オンライン対話サービスの契約がかなり増加した。オンライン対話サービスにビジネスチャンスを感じたCが、高齢者に留まらず、老若男女問わずサービスを展開すべしとの進言をBに申し立てた。実際に試してみるとかなりの数の申し込みがあり、会社は成長した。 新型コロナウイルスのワクチンが完成すると、ワクチンを求めながらも中々受けられないことによる悲鳴が木霊した。インターネット上には、北米や欧州で大量にワクチンが投入されながらも、アジア及び日本にはさほどワクチンが供給されない状況に対する批判がSNS上で氾濫したので、政府はSNS上での誹謗中傷を制限する法律締結へ向けて邁進した。オンライン対話サービスは想像以上には躍進せず、直接対話サービスやその他サービスも、以前より同様のサービスを提供している企業に阻まれて成長しなかった。会社は事業継続が困難になりつつあり、コロナショックで不良債権が溜まりに溜まった銀行は、融資を全くと言っていいほど行わなくなった。 万事休すと痛感した私は会社を退職し、その足で何気なくボランティアへ向かった。そこには、相変わらず失敗してばかりのZがいた。
無能 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1556.9
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 12
作成日時 2020-05-28
コメント日時 2020-06-07
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 3 | 3 |
エンタメ | 4 | 2 |
技巧 | 2 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 2 | 2 |
総合ポイント | 12 | 9 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 0.5 | 0.5 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1.5 | 1.5 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 6 | 6 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
時事的な話題を扱うのは難しいと思うのですが、相変わらず失敗してばかりのZがかなり存在感があるような気がしました。BとCの様な起業精神が有る筈もなく、ボランティアをやならねばならぬ地に居るZ。BとCに補って貰って彼らの陰に隠れがちな彼こそ漫画などでは主人公を務めるパタンが多いのではないでしょうか、「続く」と言う表現が潜在的にあるような詩だと思いました。でも現実ではそうはいかない、詩でもしかりではないかと言う主張も隠れて居そうでした。
1ありがとうございます。 Zの存在をプッシュし過ぎたような感じがしていたのですが、好意的に受け取って頂きありがたく思います。物語のプロットみたいなものを意識しながら書きましたが、もう少し丁寧に書いた方が良かったのかもしれません。何にせよ、コメントを頂戴しありがたく存じます。
0ありがとうございます。 私はいかにも「文学的」な作品や「詩的」な作品を書こうとすることをもう諦め、仰る通り「駄文」チックなものを書こうとした作品であります。 物語チックでありながら、ショートショートにも至っていない、プロットに多少肉付けしたような作品に、価値のない面白さ的なるものを模索したのですが、「単にヘタクソな文章」だけではない何かを読者に与えることを、もっと切り詰めて考えるべきであったと思うに至りました。苦味やエグ味を含め、色々と足りない感じの本作にレスを頂きありがとうございます、勉強になります。
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