始まっている、すでに 片足ずつの、ここには 歩いた跡があって それは、始まったときのように不意に途切れた
彼を追い 私は森の中深くを歩いていた
どうしてかは知らされず
どこへ行くのかも
湿った風が、何億もの葉をざわつかせた
途中、涙でできた湖を見た 畔には燃え続ける家があって 風が湖面を撫でていた 長い間その光景を眺めていて
様々なことを忘れた
不意に誰かの悲鳴が聞こえ、はっとする
始まっている、すでに
またお前は去った
来る日も来る日も、森を歩き続けた
毎朝、目が覚めると、心の在処を知らせる胸の痛みがやってきた 昼には激しく怒り散らし やがて歩き疲れて 夜には無になった そして眠った 夢を見る 湖の畔で私は抱かれていて 遠くから、誰かの悲鳴が聞こえて
あの家はまだ、燃え続けている
誰かの痛みがそこにはある
どうしてかは知らされずとも
何度も眠り、そして目覚めた
すでに、徐々に昔に戻りつつあると知っていた
ふたたび湖が目の前に現れた 畔の家は美しく燃え続けていた あのときと同じ風が湖面を撫でていた
私はその光景に見とれ いつの間にか眠る
湖の夢を見た そこは夜で、湖面には星が瞬いていた 家はまだ燃え続けていた 私はふたたび眠る
湖の夢を見た そこは朝で、湖面は絶対的な青さを湛えていた 家はまだ燃え続けていた 私はふたたび眠る
湖の夢を見た そこは夕方で、冷たい風が暗い湖面を波立たせていた 家はまだ燃え続けていた 私はふたたび眠る
湖の夢を見た
……
そこは朝とも昼とも夜ともつかない場所で 波一つない湖面には、全ての風景が鏡のように反射していた 私は湖を覗き込んだ
やはり私の身体は湖には映らなかった
家はまだ燃え続けていた
私はとても悲しくなって、湖に飛び込み、目を閉じた 息が苦しくなり、やがて眠る
その夢の中では、湖は枯れていた 森は都市に変わっていた 家はもう燃えていなかった
私が探していた彼は都市の中の、煤けたアパートに住んでいた 彼はただの、優しい男の子だった
私はきっと、いつの間にか老いていて 何を追いかけていたのかはもう忘れたことにした ただ、何かを湛えた湖があった 畔で燃えていたものがあった そのことを彼に伝えた そして彼のとなりで、泥のように深く眠った
作品データ
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作成日時 2020-05-21
コメント日時 2020-05-21
#現代詩
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項目 | 全期間(2024/11/22現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 3 | 3 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 3 | 3 |
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2024/11/22 00時45分59秒現在
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