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球根
緑の深い集落だった ここに住んでいるのは何者だろう、 白痴のふりをして、嗅ぎまわる私に 村人は 「かわいそうだね」 そう言って、一個の球根を手渡す。 「咲くんですか、本当に、華は」 村人は、答えない。 山菜を摘んでいる。緑の、深い、集落で 「ふきは煮込むと、美味しいですよね」 だから 私はお鍋に湯を入れて、 沸騰 山菜を、煮込むのだった。 「ぐっつ、ぐつ、ぐっつ、ぐつ」 と………… 「ぐっつ、ぐつ、ぐっつ、ぐつ」 と。 眼を覚ますと、生ごみの発酵する つん、とした 匂いがする。 緑の深い、集落だった。 太郎吉と呼ばれる壮年の男は 村人に猪を狩る方法を、教えているらしい 雄の精液を、舐めろと言われたことがあった。 「おうえ」 射精の快楽からは程遠く、 私は嘔吐する、 白痴のふりをして、頬を緩める。 球根を埋めている。緑の、深い、山奥で 「どこまでも地上深く生えていくといいです」 土の匂いが、手の平を侵食する。 「どこまでも地上深くに届くといいです」 「わたしはかつて向こう側の住人でした」 「届くといいです」 緑の、深い集落だった。 私は白痴のふりをして、 嘔吐する。 どこまでもどこまでも、 土の匂いをさせた手の平で 届きますようにと、 球根を埋める。 わたしのよく知っている、 あの向こう側へ。
球根 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1433.2
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投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2020-05-11
コメント日時 2020-05-19
項目 | 全期間(2024/12/04現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
緑の深い集落 なぜか対話にならない、一方通行の会話・・・場面設定は豊かなのに、あと一歩の踏み込みがほしいという印象が残ります。 擬音語、擬態語の取り込み方が、散文的表現に傾きすぎている(説明的になりすぎている)ことも気になります。 かわいそうだねと「手渡される」球根。言葉の、想いの凝縮した、これから芽吹く塊のようなイメージなのか。 白痴のふりをして、というフレーズも、どうしても文学的な既視感がある言葉なので、そこに頼らずに表す工夫があると良いと感じました。 語り手は、死んだように生きている、という感覚があって・・・再び生命感を得たいと願っているように思われます。
0まりも 様 「あと一歩の踏み込み」、大変に刺さるご感想です。 「なぜか対話にならない」会話を情景に取り入れていながら「白痴」という言葉を使ってしまったのはよくなかったですね。 「再び生命観を得たいと願っているように思われます」というご感想、非常に嬉しい感想です。 強度を上げていきます。
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